#1ジョンハン ページ1
10年前―――。
『速報です。大人気アイドル、キム・ヨンスさんが今朝方亡くなったとの情報が入りました。警察はヨンスさんの遺体は激しく損傷しており、死因究明に……』
キム・ヨンス。
韓国では知らない人は居ないほど、老若男女関係なく人気のあった偉大なるアイドル。
最近は海外公演も頻繁に行い、全世界に彼の人気を広げていた最中のことだった。
彼の死が知らされたのは、突然の事で、世間を賑わせた。
ストーカーに殺されたのでは、何か事件に巻き込まれたのでは、等と様々な信ぴょう性のない噂が当時は流れたものだ。
そして、彼の熱狂的なファンは彼の死の後を追うかのように自ら命を……。
彼に憧れ、アイドルを目指した人間は数え切れないほどいる。
「ヨンス、なんで……」
高校生だった俺は、少ないお小遣いを貯めては彼のCDやブロマイドを買って集めるほどファンだった。
このことは、俺の精神的に大きなダメージを追った。
しかし、更に、不幸は止まらなかった。
ヨンスの訃報から3日後。
「妹さん……Aさんはこちらに……」
2週間前から家出をした妹。
捜索願を届ており、見つかったとの知らせを受けて家族総出で迎えに行ったのだが。
警官に案内された場所は、霊安室だった。
「そんな……嘘よ……」
母はその場で泣き崩れる。
父は涙を堪え、母を支えた。
妹のAは、変わり果てた姿で帰ってきた。
両親はとても警官の話を聞ける状態ではなかったから、代わりに俺が話を聞いた。
妹は、工事中の場所を通りかかった時、建物に設置されていた鉄骨が落ちてきて……下敷きになったそう。
「A……」
Aは、反抗期だったからか、ほぼ毎日両親と言い合いになっては家出を繰り返していた。
学校もロクに行っておらず、1日をどこで過ごしているのか分からない状況だった。
しかし、本人に何か変化があったのか、半年前からは真面目に学校に通いだし、両親と衝突することも少なくなっていったのだ。
反抗期が過ぎたのかな、と思っていた。
でも違った。
2週間前にまた家出をしてそのまま、帰らぬ人となったのだ。
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作者名：菜々子
| 作成日時：2022年11月22日 19時
