スパイになれなんて聞いてません！4

#153 ページ3

綺麗に整った彼の顔が、憎悪を含んだ表情を見せるのは、わたしにとって恐怖を感じさせるのには十分だった。

無表情でわたしに近づいたかと思うと、手を振り上げ、わたしの頬を殴る。

バチン、と皮膚同士がぶつかる大きな音が部屋に鳴り響く。

殴られたそこは激しい痛みと、熱を帯びた。

わたしが抵抗しないと思ったのか、もう一度彼はわたしに殴りかかろうとしていたがそれを間髪避ける。

それが更に彼の怒りに触れてしまったようで、彼の表情はなかったものの、目は怒りで染まっていた。

どうして、理由もなくこの場に連れ去られ、初対面の美男子に殴られなければいけないのだ。

彼は拳をわたしに振ってくるが、それらを全て避ける。

ここで訓練していた事が発揮された。



「や、やめてください！」



必死に抵抗するも、彼の怒りは収まらないようで手だけではなく長い脚までもが飛んでくる。

避けるのが必死すぎて、彼をひとつでも殴る事ができない。

隙がなさすぎる。

息を切らして必死に抵抗しているのに、不思議な事に彼はひとつも息を荒げない。

わたしよりも激しい動きを見せているのに。



「はぁ……」



とうとう体力が尽きたわたしは、その場に倒れこむ。

彼はわたしを冷ややかな目で見降ろしている。

もうダメだ。

わたしは彼のサンドバッグになる事を決意した時。



「ヒョンウォナ」



誰かの声が聞こえたかと思うと、彼は動きを止めた。

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