手は繋がない (ページ9)

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今目の前でグズグズと鼻をすする女の子は、同じ時期に練習生になった子だ。2つ年下でチャニオッパ、なんて可愛らしく後ろをついてきて、偶に垣間見える大人っぽさで精神的に何度も支えてくれた頼れる子。

とにかく耳が良くて、ダンスでは俺には聞こえない音も拾っているんじゃないかってくらい。彼女は作詞もしていて、2人で曲を作ってみたりした。

オーディションの時Aが男だったら、真っ先に声をかけていたはずだ。前にそんな事を言うと、彼女は少し悔しそうに顔を歪めたけれど「私はStray Kidsのメンバーには合いませんから」と冗談めかした。

君は知らないんだろうね。自分が男女問わず他の練習生から尊敬されていた存在で、それは俺や君が避けられていると思っている俺の弟達も例外では無い事を。

　でも、Aの世界は音を無くした。Aが事故にあっていたなんて全く知らなくて、彼女と最後に会った日、急いでPDニムに確認した。

＿＿だって、チャニはAに依存している。今は大事な時期だったから、言ってしまったら負担になると思った。

PDニムの答えは的確だった。

実際にAが俺の前から居なくなってから、ずっと彼女の幻影を探していたし、メンバー達も薄々その事に気付いていた。

だからリノからAを家に連れて来たと聞いて、その日風邪気味だったリノ以外でレコーディングをしていたのをすぐに切り上げて急いで戻った。

5年間探していた彼女は磨きがかかった美しさの中に、少女のあどけなさを残していた。思わず抱きしめると、こんなに小さかったのかと驚いた。

＿＿A……もう居なくならないで。

彼女の頭上で呟くけれど、俺の声はもちろん届かなくて。苦しそうに背中を叩かれたから離れたら、顔が赤く熟れた彼女が居た。

　ピコン、とスマホの通知が鳴る。送り主は泣きながら震える手で文字を打っていたAだった。

「"私は他の人の様に機敏に動けませんし、自分が支える立場ではなく支えられる立場になるかもしれないんです。ハードスケジュールで大変なオッパ達と、スタッフさんに迷惑をかけるのは嫌です"」

やっぱり、自分は役に立たないと決めつけて断ろうとしている。そんな事させるわけない。やっと見つけたのに。

「"コンサートやイベント書類の翻訳とか、俺達に外国語教えたりするのはAが適任だと思うよ"」

「"後悔しませんか？"」

「"しないよ、絶対"」

ほら、君の決心を固めたその表情が何よりも好きなんだ。