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「"ありがとうございました"」
自宅のマンションの駐車場に車が停り、スマホをポケットに入れようとすると、チャンビンに肩を叩かれて「連絡先教えて」と言われてしまった。
元練習生とはいえ今は一般人である訳だし、彼らを応援するSTAYを考えると素直に頷く事は出来なかった。
「"俺とも交換しよう"」
「"私は一般人なので"」
「"でも、これから仕事仲間になるかもでしょ？"」
チャニオッパは私がオッパの頼みに弱いと知っている。渋々とスマホの電源をつけると、満足気に微笑んだ。罪悪感を胸に抱えながら、新しい友達の欄に増えた2人の名前を見つめた。
自分の部屋に入って駐車場に目を落とすと、ちょうどチャニオッパの車が進み出した。
ふと姿見に映った自分に、こんな格好でアイドルと会っていたのかと嫌気がさして、ベッドに潜り込む。
"おやすみ"
チャンビンから来たメッセージに"ありがとうございました。おやすみなさい"と返して、チャニオッパにも似た文面を送り、そのまま夢の世界へと旅立った。
それから1週間、答えを出せないまま時間だけがすぎた。気分転換に幼児向けの絵本を翻訳しているとスマホが震えた。
"今から事務所に来れる？"
送信主のチャニオッパに指定されたのは約7年間ほぼ毎日通いつめた場所。
まだ既読はつけていない。気づかなかった振りをしようと、電源ボタンに手をかけると"Aが来るまで待ってるよ"と送られてきた。
私はマリアナ海溝よりも深い深いため息をこぼして、メイクに取り掛かった。
練習室の一室をノックする。ニット帽を被ったチャニオッパがドアを開けてくれて、ゲーミングチェアに座らされた。
「突然呼んでごめんね。実はこの歌詞を見て欲しくて」
手渡されたのはチャニオッパ直筆の歌詞。歌詞ならカトクで送ればいいのに、と思いながら目を通した。
＿＿Aが5年前に居なくなって、どうして引き止めておかなかったんだろうって何度も後悔した。君のダンスも歌も歌詞も俺に影響を与えてくれて、年下だけれど本当に頼れる存在だったし、今でもそれは変わらない。一緒に居て欲しい。
歌詞じゃないじゃん。
インクが滲む。チャニオッパは私の背中を赤ん坊を寝かし付ける様にリズム良く叩いた。
「"私は他の人の様に機敏に動けませんし、自分が支える立場ではなく支えられる立場になるかもしれないんです。ハードスケジュールで大変なオッパ達と、スタッフさんに迷惑をかけるのは嫌です"」
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作者名：コンビニ | 作成日時：2024年1月25日 5時
