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傍に居てほしい、って。
疑問符を浮かべながらリノさんを見ると「どうする?」と訊かれて、どうするも何も意味が分からない。
「"傍に居るってどういう事ですか?"」
「"そのまま。俺達専属の作詞家になって一緒に居て。作詞家じゃなくてもスキジキとか"」
……そんな簡単に言わないでよ。
目の前に居るのはリノさんの皮を被った別人だと思った方が、まだこの状況に納得出来た。
再び外が光ったが、原因は雷ではなくて車のライトだった。宿舎に来る車なんてよっぽどでない限りStray Kidsの誰かしか居ないはず。
今すぐ逃げ出したいが、外は雷雨で視界からの情報も極端に少なくなっていて危険すぎる。私は諦めて彼らがリビングに慌てた様子で入ってくるのを見守っていた。
「A……!」
着いて早々、チャニオッパが息もできない程強く私を抱きしめる。トントンと背中を叩くと、チャニオッパは眉を下げて、名残惜しそうに私から離れた。
「会えないと思ってた」
私も会うつもりはなかった。鼻の奥が痛くなって、目線を下に落とす。
頬を筋肉質の手に挟まれ、無理矢理顔をあげられた。
「俺を見て。……A、俺達と一緒に活動しない?Aの書いた歌詞を歌いたい」
練習生だった時も偶に見えたチャニオッパの強引さ。こうなれば彼は私が了承するまで引き下がらないのは学んでいた。
スマホを持つ手が震える。
「"少し考えさせてください"」
「そう、だよね。急に言われても困るよね。俺達は何時でも大歓迎だから」
〈俺達〉だなんて。
後ろで戸惑いながら目線を右往左往させている貴方のメンバーは歓迎してくれるんですか?
出かけた疑問をグッと堪える。
チャニオッパとリノさんは何かと関わる機会が多かったから、こうして気がけてくれているけれど、他のメンバーとは廊下ですれ違ったりした時に挨拶をする位だった。
というのも、彼らが私に対して張り詰めた空気を持っていたからだ。特に心当たりも無いからそれについて触れはしなかったし、適度な距離で接して来た。
「Aの仕事は?」
「"翻訳家です"」
チャニオッパは「今度翻訳した本読ませてね」と目尻に皺を寄せた。
「危ないし、車で送るよ」
チャニオッパとリノさん、そして私の3人で話して、雨が小降りになり始めた頃に帰る素振りを見せると、チャニオッパが車を出してくれる事になった。
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作者名:コンビニ | 作成日時:2024年1月25日 5時