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反抗の意を示すには、強く握られた手を揺さぶるしか無い。後ろに体重をかけて止まらせる事も出来そうだが、リノさんを怪我させる恐れがある。
到着したのは街から離れた1軒の家。
我が物顔で入るのだから、きっとここが彼らの宿舎なんだろう。思わず記者が居ないか辺りを見渡した。
リビングのソファに座らされてからも、離れない手は私を逃がすまいという意思を持っていた。
「Aだよね？」
マスクをとって、彫刻だと崇められる顔が歪められる。
「ごめん。……その、あの時の事謝りたくて。いきなり引っ張って怖かったよね」
そりゃあ怖かった。これが全く知らない人であれば殴って警察に突き出した。
「……なんでやめたの？やっぱり俺のせい？」
＿＿何だよー、その喋り方。
あの時のリノさんの言葉が浮かぶ。それは確実に私から声を出す勇気を奪ったが、夢を諦めたのは自分が弱かったからだ。
首を横に振っても尚、眉間にシワがよったままの彫刻は、私の頬に手を添えた。
「話してくれないの……？」
宝石の様な目が潤む。こちらが悪者みたいで罪悪感が募る。
私は緩められた手の拘束を解き、スマホに文字を打った。
「"耳が聞こえないんです"」
「な、冗談……じゃないよね。もしかしてあの時から？」
頷くと、リノさんは顔を覆ってしまった。リノさんの指の間に水が溜まり、肩が震える。遠くで雷が光り、外を見ると窓が曇っていた。
リノさんの震えがおさまって、向けられた顔は頬に何本もの涙の道を作り、耳を赤くしていた。
きっとダンスを何よりの武器とする彼なら、聴力を失った事がアイドルへの夢を諦める事に繋がるのは理解出来たから、こうして涙を流してくれているのだ。
「"リノさん、あの時の事は気にしないでください。貴方は何も知らなかったんですから。私は大丈夫です"」
スマホを見せると、リノさんは私からそれを奪い取って、何か打ち込み始めた。
よっぽどの長文を打っているらしく、彼の骨ばった指が忙しなく動いていた。
スマホを返されて、リノさんは自分のスマホをポケットから取り出し、電話をし始めた。受け取った画面には何行にも渡る文字の羅列があり、少々眠たくなってきた頭には一苦労だった。
「"Aが気にしないと言っても、俺はずっと気にするし、後悔する。あの時は本当にごめん。今、何か仕事してる？もし嫌じゃなかったら俺達の傍に居てくれない？チャニヒョンだけじゃなくて、弟達も喜ぶと思うから"」
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作者名：コンビニ | 作成日時：2024年1月25日 5時
