手は繋がない (ページ4)

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チャニオッパとの壮大な別れを果たしてから5年。彼からはあの後何度か連絡が来たけれど「大丈夫です」と一点張りをして、しばらくしてから携帯番号やアドレスを全て変えて連絡先を絶った。

〈Stray Kids〉

　検索履歴の1番上を陣取る文字をタップする。

アイドルの夢を辞めるとは言っても、1度魅入られた音楽の世界から完全に離脱する事は到底出来ず。歌詞やスピーカーから感じる振動を頼りに、曲を推測して楽しんでいた。

SNSに上がったリール動画をチェックして、テレビ番組の録画も忘れない。

私はひっそりとアイドルオタクとして過ごしていた。

　母からのメッセージに返信をしていると、夕食の話になり、冷蔵庫が空っぽだった事を思い出す。約2年前から始めた一人暮らしは母や友人が気にかけてくれるから、案外何とかなっている。

コンビニで何かつまめるものを買おうかと、クロッカスを引っ掛けた。

外に出ると、湿気を含んだ空気が頬に張り付く。空は黒のキャンバスに墨汁を塗った油の様な雲が置いてあった。

コンビニではセルフレジで会計を済ませられるから、安心して通える。お気に入りのジュースと惣菜やスイーツをレジ袋に入れて、今日は少し散歩をしてみようかと来た道とは別の道に歩を向けた。

　閑静な住宅街を抜けると、舗装された石段を見つけた。想像していたより長かった石段の先には、街全体を見下ろせる広場があり、真ん中にポツンとベンチがあった。

ベンチに腰を下ろして、缶ジュースを開ける。

ジュースをちびちび飲みながらボンヤリとしていると、突如人影が私の影に重なった。

影の正体は蒸し暑い中ニット帽とマスク、サングラスをした怪しさ溢れる人物で、体格の良さからして男だ。

鼓動が体内で鳴り響く。

「＿＿＿＿」

マスクがペコと凹む。首を傾げれば、彼はサングラスとマスクを一瞬取って、即座につけ直した。

しかし、それだけでも彼が毎日動画や写真で見ている人物だと認識するには十分だった。

ミンホさん＿基、リノさんだ。

彼は手招きをした。ついてこい、という意味なのだろうけれど、私は首を振る。

ネット社会の現代で誰が見ているか分からないと言うのに、リスクを冒してまでリノさんについて行く理由がなかった。

リノさんはこめかみに手を当てる。彼が考える時によくする癖だ。

ブブとスマホのバイブが鳴って画面を開くと、それを狙っていたのか、リノさんは私の手を取って走り出した。