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長い期間のリハビリを終えて、調子を取り戻した体であの日と同じ道を辿る。違う事と言ったら母の運転する車に乗っている事。私の様子を心配そうに伺う母に気付かないふりをした。
「本当に行くの?」
「大丈夫。終わったら連絡するね。……話し方、変じゃないよね?」
「全然変じゃないわ。可愛い声。素敵よ」
「ありがとう」
最後にハグをして、事務所に入るまで見送ってくれた母に手を振った。
練習室のフロアに行くといつもだったら聞こえるはずの音漏れがない静かな廊下に、改めて現実を突きつけられる。
一室を覗くと男子グループが練習をしていた。彼らは2つ年上のバン・チャンオッパが主体となって先日デビューを果たした〈StrayKids〉だ。
__今度は君の番だよ。
PDニムに以前言われた言葉。それは私がチャニオッパがされた様に、メンバーを集めてデビューをするという事を意味していた。
まさか自分が尊敬するチャニオッパの後を任せられる様になるとは思ってもいなかったし、それで有頂天になっていたのだから天罰が下ったのだと思う。
ぐるぐると回る思考が吐き気を催して、その場に座り込んだ。
数分程経って顔を上げると、黒目がちの三白眼の男がしゃがんで、私を見ていた。いつからそこにいたのか、足音が聞こえなかった……否、もう聞こえないんだと気分が落ちる。
「大丈夫?」
小さく頷いて立ち上がる。同時に彼も立つと座っていた時に感じていた圧迫感がなくて、私より数センチ低い身長が可愛らしかった。
そのまましばらく特に理由もないけれど見つめあっていると、暖房機特有の風が足を撫でた。
「わ、ビックリした……、見てたの?」
練習室から出てきたのはあまり会いたくなかったチャニオッパで、いつもと変わらない柔らかい笑みが今は胸を締付ける。
「あー、そっか、Aはそうだもんね。入りなよ」
1人納得するチャニオッパのお誘いを断った事がない私は条件反射の如く「はい」と答えた。変な声だったかもしれない。たったの1音でも発した事を後悔した。
チャニオッパに導かれて室内に入ると、後ろから先程の男が着いてきたので、やっと彼がStray Kidsの一員ソ・チャンビンだと思い出した。前回会った時と髪色も違って今は眼鏡もかけていたから、中々記憶の中の彼と一致しなかったのだ。
Stray Kidsに会釈をすると、空気の壁が現れる。
端に座って壁と一体になれないかと考えるくらいには、自分の選択を取り消したかった。
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作者名:コンビニ | 作成日時:2024年1月25日 5時