少女に記憶 (ページ8)

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第97話ページ8

「ソレ」は地面に落ちると、しばらく立ち上がれないで、不気味に地面を這いつくばった
しかし、操り人形のように不自然でゆっくりとした動きで直立する

立ち上がった「ソレ」の中心にはぽっかりと穴があいていた
そこから血を流しながら、虚ろな表情で私に一歩一歩近づいてくる

死体が動くというおぞましさと、死者を冒涜するような行為に対する怒り、
その他把握しきれない負の感情が混ぜこぜになって渦巻く

と、
私の数歩先というところで「ソレ」は止まった

「…あ゛」
「っ！！」

唐突に「ソレ」が音を発した
それは完全な声になっていない雑音だった

「…あ゛、なだが」

段々と音は声となってゆく

「あなたがいだがら」

徐々に声は整っていき、

「あなたがいたから、あだしは」

言葉に変化していった
そして、

「貴方がいたから、あたしはこんな目に逢ったのよ」

…完全なユイナの声で放たれた言葉は、、私を突き刺した

「…！…」

光の消えた瞳には、憎しみが宿って見えた
無表情な顔には、恨みを湛えているように見えた

「ソレ」の言葉は続く

「貴方さえいなければ、あたしはまだ生き続けられたのに」

淡々とした口調に想いが含まれているように感じた

「貴方なんていなければ良かったのに」

「ソレ」の紡ぐ言葉全てが私の心を次々と串刺しにする

「貴方が行動を起こすと誰かが死ぬ
　ほら、今だって

　…貴方のせいで子供達は何人死んだ？

　そして、これから貴方のせいで何人死ぬ？」
「…」
「だから、あたしが殺す
　過去の罪から目を逸らし、償っていない貴方を」

すぅっと「ソレ」の両手が伸びた
行き先は私の首

べたっと生ぬるい赤い液体が私の首に手形を作る
同時に力がきた
それは私の首をじんわりと絞めていく

そして私は…

目を閉じた

ゴッ
続いたのは鈍い音だ
肉を打つ音

しかし、その打撃は幻に放たれたものではない

「―ッ」

私は額を押さえる
私が殴ったのは自分自身だ
殴ったと言っても素手でなく、打撃系の魔法でなので流血してしまった

再び目を開くと視界が奇妙な事になっていた

森と死体の幻と白い部屋の風景が重なって見える

白い部屋が現実の景色だろう

私は自身の痛みを、幻でない現実の痛みを強く意識する

『フム、痛みで現実を意識し、現実を取り戻そうという訳だな』

感心したようなカインの声
今の状態ではそれがガンガンと響く

「うる、さいっ」

幻の画がぶれた
段々と薄くなる

そして、、