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｢ああ……A先生には、いい加減教壇に上がって頂こうと｣
｢嫌です。あのままで事足りている｣
｢こいつ、イデア・シュラウドのようなことを……｣
先程の無視ですっかり拗ねてしまった学園長は無言で私たちの会話を聞いている。一体どんな感情で聞いているやら。
｢職務は全うしています｣
｢生徒から不信を謳われているんですよ｣
｢大体何を今更……昔君がキャンキャン吠えてきたのを思い出す……あの時代の学園は忌々しいです。トレイン君に問題児だと鞭で叩かれていたじゃないですか、君｣
｢何の話ですかされてませんよそんなこと。ともかく、色々と邪推されるくらいならいっそ前に出してしまえば良いという話です｣
｢それこそ何の話で……｣
かつての教え子が眉をつり上げる。まずい、抵抗しすぎた。
一定の人間は反抗すればするほど意固地になるのだ。このままでは良くない。そう判断し、早急に謝ろうと向き直ったところで、学園長が口を開けた。
｢ま、確かに一理ありますねえ｣
｢学園長｣
｢貴方、今変な噂が立ってるんですよ｣
｢どういう｣
｢お尋ね者なので人前に顔が出せないんじゃないのか、とか｣
｢そんな訳ないでしょう。仮にも教職ですよ｣
｢噂なんてそんなものでしょう｣
｢学園長が言ってるんだからいい加減出てきてください。貴方の書類を運ぶ生徒の身にもなって……｣
｢あーあーあー……もういい年こいて説教はウンザリだ…………｣
私が露骨に顔を歪ませると、学園長は肩を竦めた。
｢仕方ありませんねえ……｣
しっかりたっぷり間を置いて、彼は私に微笑んだ。嫌な予感がする。
＊
｢改めて君たちの指導を行う……Aだ……｣
気の抜けた私の姿を見てポカンとしている彼ら。
教壇の上は久しく、生徒の顔を見るのも初めてなくらいだ。
どうしたものか、ゆるゆると帰巣本能に頭をかまけていると、一際失礼な男がお、女だ……と呟いた。
それが引き金となったのか、ザワザワと伝播していく囁き声に一層大きな煙を吐く。
カツン！と煙管を角で打てば、水を打ったように静まり返った。
｢この度は、あー……学園長に引きずり出されて……前に立ったが、今後また姿を現すことはないと思ってくれていい……君たちの思う通り、出席率と作品と……それ以外では評価を行う気がない“単位の取れやすい授業”だ。喜ばしいだろう。ではまあ、各々、いつも通り始めていただいて｣
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作者名：睡眠薬 | 作成日時：2021年8月10日 9時
