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ナイトレイブンカレッジ──通称NRC学園は、学園を出た魔法師が多く教師に就いている。それはどの代も例外はなく、優秀な学園が排出した優秀な教師がここに集まれば自然とこうなるというわけだ。
何が言いたいかといえば、私はここで相当にアウェイと言うやつだった。
「A先生、今日も精が出ますねえ」
「学園長……」
埃臭い私の資料室によく来るのはこの人くらいなものだ。
相変わらず全身真っ黒で華美な服装にため息をつく。その内どこかに引っ掛けて悲鳴をあげるんじゃ無いだろうか。
「今日は何を描いているんです?」
「まだモチーフは決めてませんよ。学園長、いい加減その服装でここに来るのは止した方がいいんじゃありませんか」
「何故です?」
「召し物が画材まみれになっては堪らないでしょう」
彼の近くに置いてあった油絵具を退かしてやる。
おや失礼、なんて後ずさった先にも乾き切っていない絵があるのだ。見ていられない。
見たところ、私とは桁外れに良いものを身に付けていらっしゃる。いつもヒヤヒヤするのだ。弁償なんて私の安い給料からは出せたものじゃない。
生憎生活費以外はほとんど画材に消えているし。
通帳の残高を思い出し、眉間に皺を寄せていると、ドアの方から声がした。
「おや、お客がいたとは」
「クルーウェル先生じゃありませんか。珍しいですねえ……私がA先生に訊くといつだって“今週?誰も来てませんよ”とか言うくらい人が尋ねないらしいじゃないですか」
「人の客を珍客扱いしないでください」
「毎週来てやろうか?A先生」
「結構です。君に気を遣わせるとはとんだ屈辱だ」
如何にも人を小馬鹿にするような笑みから目を逸らす。言い訳の仕様がないほど私には他教師との交流がなかった。ロクな人間がいないからだ。
会う度に筋トレを勧められたり清潔感がないと顔を顰められたり服装を正せだのと言われたり。いいじゃないか。どうせアトリエに篭もりきりの人間だ。それに身支度の時間すら惜しい。
「だからと言って3日風呂に入らないのはやめろ」
「いいでしょう……人に会わない時だけなんだから」
「お風呂には入りましょうよ」
プライベートは個人の自由だ。お説教はごめんである。
「それで?学園長はどうせ職務放棄でしょうけれど、クルーウェル先生はどうしてこんな陰気な所に?」
途中、学園長がエ?どうして私だけを傷付けるんです?と不満そうに突っ込んできたが、一々構っている余裕はなかったので無視した。
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作者名:睡眠薬 | 作成日時:2021年8月10日 9時