佰伍拾肆 ページ9
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「今日、どんな言葉でこの人に誘われたんですか?」
こっちの人の方が話が通じそうな気がして問いかければ。
「“男が苦手な後輩に、出会いの場を設けてやりたいからって”」
「……」
「ね、ねえちょっと」
「分かりました、教えてくださりありがとうございます」
きちんと彼に向き合って、深く頭を下げる。
上げた勢いでアルコールが回ってきたのか、くらりと思考が不鮮明になってきた。
「……会食の目的について重大な齟齬が生じていたようなので、お暇します」
揺らぐ思考でAIが生成したみたいな文言を吐き出して、バッグを掴む。
引き留める声をシャットアウトして、千円札を数枚机に置いて上着を取り個室を出た。
大股の早足でカツカツとヒールを鳴らし、一切躊躇わず外に出る。
深呼吸を一つして、どこかのコンビニにでも入って待とう、と思ったら。
「ちょっと、待ってよ!」
「……」
振り返って遠慮なしに睨む。
「何ですか、お金はあれで足りるでしょう」
「そういう話じゃないわよ!」
「じゃあ、何のお話ですかね」
カン、と省みて爪先を地面に叩きつける。
元々の背丈に加えて今日はヒールだし、彼女とは十センチ以上の身長差が生まれている。
目つきも加えて威圧感は十二分だろう。
「何って、勝手に帰ることないじゃない!」
「あの人達にはちゃんとお伝えしましたし、代金も払いましたが?」
結局一杯しか飲んでないからあの額じゃ奢ったようなもんだ。
「私がいつ帰って良いって言ったのよ!」
ハッ、乾いた笑いが零れた。
「貴女の言うことを聞く義務があるとでも?」
ついでに言えば尽くす礼もねえ。
「何よ……貴女の彼氏なんてどうせ冴えない男だろうから、
私の知り合い紹介してあげようと思ってたのに!」
「はぁ? そんな魂胆だったのかよアンタ。
余計なお世話だボケ」
もはや敬語すら付けず脳直で投げつけた。
先輩だとさえこの女を認めたくない。
たかが数年年を喰っているだけの屑に。
「それと、
アンタに、私の恋人を値踏みされる筋合いは、欠片もない」
一言一言を低く、硬く放ちながら睨み下ろした。
ぐっと気圧されたように黙り込んだ彼女に、幾ばくかの理性を取り戻して続ける。
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作者名:camellia* | 作成日時:2023年10月1日 16時