佰伍拾参 ページ8
─
「ねぇ、リサ。この子の下の名前何て言うんだっけ？」
指さすな親しげに言うな。
やばい口開いたら罵倒しか出てこなさそうだ。
と言うか。
「え〜？ えっと何だっけ……ド忘れしちゃったかな〜！」
ほらな。
この人が私の下の名前なんざ覚えてる訳がねえんだ。
つーか知ってるかどうかすら怪しい。
「……翠です」
アクアマリンの和名の一つだった気がする緑柱石から適当にもじった。
リサってのも確か元先輩の本名をもじった渾名だったはずだし。
「あ、そうそう！ 色系の名前だった気がしたんだよね〜！」
ちげえよ馬鹿。安易に飛びつきやがって滑稽すぎるな。
精神衛生上心の中では毒を制御しないことにして、反対に薄い作り笑顔を浮かべた。
あーそうだわ私ってこんなだったわ。
他人への毒を脳内で吐き散らかして、勝手に人を品定めしたつもりで、表面だけ口角を上げといて。
服装を整えたって化粧を施したからって、根っこは性悪だ。
……変わったって、変われたって思ったんだけどなぁ。
“健悟と出会えたお陰で”
「……！」
何かが込み上げてくる気がして、グラスをぐっと傾けてごくごくと飲み干した。
「……っふー」
「おお、良い飲みっぷりだね〜！ 二杯目何行く？」
「ん、ゆっくり飲むのでお気遣いなく」
帰ったら、健悟と喋りながら酔いを冷まそう。
塩昆布茶でも呑もうか、温まりそうだ。
早く会いたい、と思いながら胸元のアクアマリンをそっと指で探って触れた。
「……可愛いね、そのペンダント。お気に入りなの？」
「はい、大事なプレゼントで」
厳密に言えばもっと沢山、数えきれないものを享受しているのだけど。
「プレゼント？」
「ええ、彼氏から。ホワイトデーに」
牽制を期待して心持ち大きな声ではっきりと言い、それとなく睨むように目をやる。
ところが隣の男の反応は意外なもので。
「え？ 彼氏いるの？」
……演技には見えなかった。
「……いますよ。
先輩にも伝えてたので、お二人が来たのに驚いてたんですが」
彼女を横目でじろりと見ながら、そう続ける。
あからさまに狼狽えた顔。
…………まさかとは思うが。
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作者名：camellia* | 作成日時：2023年10月1日 16時
