佰伍拾壱 ページ6
─
……早くも決断を後悔している。
いや健悟相手に薄皮一枚、いや猫一匹でも被った時点でその外面を維持する覚悟を決めるべきだったのだ。
それは汚い感情を見せたくない私の落ち度である。
何だ私は一体何を何枚被ってるんだ?
あー現実逃避でもしないとやってらんない。
何でかって、この光景を見れば納得してもらえるだろう。
目の前にチャラそうな男が二人、気安そうにヘラヘラ話しかけてきてるこの景色を見れば。
「……すみません、少しお手洗いに」
「えー何、二人が来たからってメイク直し?」
する訳ねえだろアホが。
心中毒を吐きながら掘りごたつの席を立ち、暖簾をくぐって廊下へ出る。
……私の今の大まかな状況はお解りいただけただろうか。
一応説明しよう。
予約したと言われた店に出向き、店員さんに待ち合わせだと告げるなり個室がある方へ案内された時点で嫌な予感はひしひしとしていた。
元先輩はいっそ悲しくなってくるくらい相変わらずで。
舐められない程度に武装してきたし、健悟がくれたアクアマリンのペンダントも着けてきた。
そしたら「色気づいたね」と言われた。皮肉も嫌味もなく、オブラートにすら包まずそのままで。
そんな軽口が通用する間柄だと思っているんだろうか。
極めつけは、一杯目を頼んで吞みだした時。
前述した男が二人我が物顔で入ってきて、彼らを出迎えたその笑顔で大方察した。
信じられねえ、あの女。何一つ進歩が見られない。
昔だってこんなことはしなかったけど、しようと思う関係ですらなかったけど。
だからって数年ぶりに会う彼氏持ちの元後輩との食事の場に、騙し討ちみたいに男を呼ぶだろうか。
正直このままバックレたいが、不覚にも上着を置いてきてしまった。
取り敢えず化粧室へ駆け込み、個室に入って鍵を閉める。
ドアに背を預けたまま健悟にメッセージを打った。
.
46人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:camellia* | 作成日時:2023年10月1日 16時