佰肆拾捌 ページ3
─
…………二年も、経つのに。
トラウマなんて重大なものじゃない。
けれどあの人の存在は、棘みたいなもので。
忘れた頃にその箇所にうっかり触れて、顔をしかめるようなもので。
あーもう考えたくね〜〜〜〜〜〜。
コンコン、コンコン。ドアが鳴った。
なに、いいよと力なく声を返すと遅滞なく開いて姿を現す健悟。
「何かあったんですか? 声が大きく聞こえたもので」
「うん…………まあ、うん大丈夫」
大丈夫か? 私
自問しながらも健悟にはそう答える他無いからしょうがない。
が、流石に彼には見抜かれたらしく。
「……信用なりませんね、貴女の『大丈夫』は」
「…………はい、大丈夫じゃないです」
すんません、と素直に謝って差し出された手を取って立ち上がった。
そのまま指を絡めて、とん、と頭を預けるように身を寄せる。
「!」
「…………」
やっぱり、この匂いが好きだ。
何なら一番安心するまであるかもしれない。
腕を回す。
「あの、Aさ」
「なに?」
胸板に顎を乗っけるように見上げる。
ぐぅ、と彼の喉から変な音が聞こえた気がした。
「……何でもありません」
「あそ。ねえ、ちょっと聞いてくんない? てか聞け」
「拒否権が無いじゃないですか……聞きますけど、」
聞きますけど座りましょう、とベッドに腰掛けるよう促された。
座ったついでに腕を伸ばして、壁との間に沈みかけていたスマホを回収する。
幸いどこも傷ついてなかった。いや投げるなって話なんだけどさ。
「……電話、どなたからだったんですか?」
「…………前の職場の先輩」
「前の職場」
そう言えば、健悟にちゃんと話したことは無かったかもしれない。
「今はダブルワークだけど、大学出てから最初……二年くらいは会社勤めだったんだよ」
中堅の広告代理店で、大手とまでは言えないけど望んで入った職場だった。
新卒らしい無鉄砲な情熱とやる気に溢れて仕事をこなしていた。
あの異変に、違和感に気づくまでは。
.
46人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:camellia* | 作成日時:2023年10月1日 16時