佰伍拾捌 視点:銀 ページ13
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額に触れてみたら、冷たさが心地よいのか手を添えてすり寄ってきた。
可愛い、と危うく全てが吹っ飛びそうになるのを自制して考える。
「……」
一杯しか飲んでいないと言うなら尚のこと不自然だ。
……女性だけのはずの酒の席に男が乱入する。
無関係でも眉を顰めるし、しかも自分の恋人が関わっているとなれば腹立たしい。
忌々しいことに、職業柄その類いの事例には敏感だ。
「Aさん、飲み物が席に来た後に席を外しませんでした?」
「ん……? ……あ、お前に連絡しにトイレに立った、かな……」
「そうでしたか……」
頭ごなしに不用心とも怒れない。
今のところは大きな異常も見られないし、様子を見るとしよう。
ソファに座らせて、水を汲んだコップを渡すと頼りない手つきでこくこくと口に運ぶ。
が、案の定緩んだ唇の端から零れたのでハンカチで拭ってやった。
子どもかこの人は……
さっきはあんなに威勢よく啖呵を切っていたのに。
……前の職場を辞めた件については、彼女が今後話してくれる時に聞こう。
あの人との折り合いは付けられても、まだもう少し抱える何かはありそうだ。
「……ねむ……」
「そのまま寝る気ですか? メイク落とさないと肌荒れますよ」
「じょしかおまえ……」
もう頭がぐわんぐわんしている。限界が近そうだ。
「あーでもふろ……風呂入りたい」
「じゃあもう少し酔いを醒ましてください、そのままじゃ溺れますよ」
もう一杯用意するか、とコップを取ってキッチンへと向かいかけたら。
「んえ〜〜〜……手伝ってよそんくらい……」
「はい?」
振り返れば、背もたれに腕と、その上に顎を乗せた彼女は告げた。
実に魅惑的な光を宿した艶やかなその青の瞳で、蠱惑的な台詞を。
「風呂。一緒に入んない?」
『なお翌朝、車に乗って以降の記憶が
飛んでいることが判明する』
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作者名:camellia* | 作成日時:2023年10月1日 16時