佰伍拾漆 視点:銀 ページ12
─
ふに。
「え」
明らかに好ましくない目で見てくる彼女の元先輩だという女性からどう逃れようか、思考を走らせていた真っ最中。
唇に触れた感触で全てが止まった。
珍しく抱きついてきた彼女をこれ幸いと腕で支えていたのだが、いつの間にか首に片腕を回していて。
「Aさん……？」
「……」
かなり酔っているのか、完全に目が据わっているAさん。
ふん、と鼻を鳴らしてまた顔を私の服に埋め、ぐうと分かりやすい声を上げて寝ることにしたようだ。
こちらまで分かりやすく頬が緩む。
ああ可愛い。可愛すぎる。
大丈夫ですよ、目移りなんかしませんから。
肩を抱き直してAさんを体ごと抱え上げ、踵を返す。
「あ、あの！ 待って、」
「……」
一歩を踏み出す前だったので仕方なく留まる。
「……待つ必要があるでしょうか？」
「、え？」
首を動かして顔だけをそちらに向ける。
「今日、Aさんは貴女と会うのを迷っていたんですよ。
それを私が、縁を切ることを前提にでも会った方が良いと勧めたんです。
無駄な蟠りを抱えていてほしくなかったから」
電話越しに話すだけであんなに精神を擦り減らすような顔は、二度と見たくなかったから。
「その結果がこの様と分かっている私には、
貴女の要望で留まる必要性がどうしても見出せないのですが」
ああ、それと。と最後に加える。
「実はAさんと貴女の会話、不躾ながら少し前から聞いていました。
私はAさんの意志を最優先に尊重しますので」
では、とそれ以上の会話を拒絶してその場を去った。
＊
＊＊
彼女を地面に下ろし、鍵を取り出して差し、回す。
ドアを開けて半ば押し込むように彼女を促した。
「Aさん……家に着きましたよ、いい加減しっかりしてください」
「……ん〜〜〜あ”〜〜〜」
「一体どれだけ飲んだんです？」
車の中では寝かせてやろうとそっとしておいたが、この酔いどれ具合はどう考えてもおかしい。
「いっぱいだけだし……」
呂律はマシになってきたが、顔はそうとは思えないほど火照っている。
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作者名：camellia* | 作成日時：2023年10月1日 16時
