番外編３─１ 出会い ページ19
少年はずっと気になっていた。いつも部屋の片隅にうずくまり、誰とも関わろうとしない少女のことを。
無論、そんな様子の彼女に自ら関わろうとする人も誰一人としていなかった。気にかけていたのも、きっとその少年くらいだろう。
そして少女が施設に来てから数ヶ月が経った、とある
春の日。
「おい謝れよ！」
そんな怒号が少年の耳を突いた。
声のする方へ歩み寄ると、例の少女が施設の少年数人に詰められている。少年は慎重に物陰から様子を伺う。
「こいつのゲーム盗んだのお前だろ！」
『こいつ』とはおそらく、少年たちの後ろで泣いている少年だろう。彼のゲーム機が何者かに盗まれてしまったようだ。彼らはその犯人を例の少女だと考えているようだ。
すると、俯いていた少女はふと顔を上げ、少年たちを真っ直ぐ見据えてから口を開く。
「…どうして私だと思ったの？」
「あ？」
「どうして私が犯人だと？何か根拠があるのね？」
その様子に、覗き見ていた少年はたいした度胸だなと思わず感心してしまった。
「そ、そんなの…いつも俺たちのことを羨ましそうに見てたからだ！」
「…？」
その言葉に、少女は少し首を傾げて見せた。何を言っているのか分からない、といった様子だ。
「それだけで私を犯人と疑うなんて…馬鹿じゃないの」
「な、なんだと…！？」
「私じゃないわ。私はあなた達にも、あなた達のゲームにも興味ないもの」
少女のその言い草に、少年のひとりが思わず1歩前に出る。
「こいつ…生意気な！」
そして少女に向かって手を振り上げた。その瞬間、覗き見てた少年は我慢できず飛び出してしまった。
「やめろ…！」
少女に手をあげようとした少年の腕を掴み、それを制する。少女は驚き目を見開いた。
「…！？」
「なっ…鬼道！邪魔すんなよ！」
「彼女の言う通りだ。何の根拠もなく人を疑うのはよくない」
腕を掴まれた少年は慌てて鬼道と呼ばれた少年の腕を振りほどく。
「じゃあ誰がこいつのゲームを盗ったって言うんだよ！」
「そんなの分からない。だが、少なくとも確実に彼女が盗ったという証拠はない」
その後も何かと難癖をつけては少女のせいにしたがる少年たちに、鬼道は呆れたようにため息をつく。
すると騒ぎを聞きつけたのか、施設の職員がこちらに駆け寄ってきた。
「ちょっとあなたたち！何を揉めているの？」
事情を説明する鬼道。すると職員は根拠なく少女を疑うのをやめるよう少年たちに言い、自身と共にゲーム機を探すことを提案した。
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作者名：紫苑 | 作成日時：2023年10月3日 0時
