第13章─13話 あの頃の3人 ページ2
「そんなこと…全く思ってないわ」
そう言って薊は薄ら微笑む。
「Aを守ろうとしたのは私の意思よ。それをAが気に病むことも、罪悪感を感じる必要もないわ」
「薊…」
「事故に遭って、その後病院で目が覚めた時、目の前にAがいて。その時Aが無事で本当によかったと思ったわ」
薊は昔を思い出しながらそう語る。
「Aにとって有人君が恩人であるように…私にとってAは恩人なの。何にも変えられない、かけがえのない存在よ」
「そ、そんな大層なものじゃ…」
「あの後しばらく2人が来てくれなくなって、私本当に寂しかった。私にとって何よりも辛いのは、2人と会えないことなんだなって」
そう言った薊はどこか恥ずかしそうだ。
「だからさ、また定期的に遊びに来てよ！忙しい時は無理に来なくていいし、本当に暇なときでいいからさ」
「薊…ええ、もちろん」
「俺も、これからは今まで以上に顔を出すようにするよ」
「本当？嬉しい！」
そして薊は笑顔を浮かべる。それは2人がよく知る、とても眩しい心からの笑顔のように思えた。
「ところで、さっき明日は決戦って言ってたよね？」
「ああ。明日世宇子に勝てば、雷門はフットボールフロンティア優勝だ」
「そんな大事な日にこんなところで油売ってちゃだめだよ！」
「どうしても今日、今までの私たちのことを伝えたかったのよ。薊には何も言わなかったせいでたくさん嫌な思いをさせちゃったから…」
「それに明日、気分よく俺たちの勇姿を見て欲しいと思ってな」
鬼道のその言葉に薊は目を輝かせる。
「ってことは、勝算ばっちりってこと？」
「…俺たちは絶対に勝つ。勝たなきゃいけないんだ」
「私はただ皆を信じるだけよ。雷門の皆ならきっと大丈夫、私はそう信じてる」
「そっか…じゃあ私も、明日皆の姿を見届けなきゃね」
「ああ、ぜひ応援してくれ」
そして笑い合う3人。Aが望んだ日常が、彼女の元に戻りつつある。
「そしたら、明日に備えて今日はもう行った方がいいんじゃない？」
「そうだな、もう少しいたいところだが…」
「大丈夫…2人ともありがとうね、話しにくいこと色々話してくれて。私のこと気遣ってくれて、守ろうとしてくれてたんだもんね。明日の試合頑張って！応援してる！」
「ああ！必ず勝つさ」
「じゃあ、私たちそろそろ行くね」
「うん！また来てね！」
笑顔で2人を送り出す薊に、Aもまた笑顔になるのだった。
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作者名：紫苑 | 作成日時：2023年10月3日 0時
