第13章─12話 すれ違い ページ1
「影山は勝利のために手段を選ばない男だった。彼を突き動かしていたのは、サッカーへの歪んだ愛憎だった」
Aたちはこれまでの影山の悪行を思い出す。
「私は家族となったその男の過ちを明らかにするため、帝国から転校した先の雷門で必死に動いたの…結果として雷門の皆も協力してくれた」
「俺はずっと、帝国学園サッカー部のキャプテンとしてあの男に従っていた…Aの動きや目的に気づいていたのに、それを見て見ぬふりをして」
薊は何も言わない。ただじっと、窓の外を眺めながら2人の話を聞いていた。
「結果として雷門は帝国に勝ち、影山の悪事は暴かれた。あの男は逮捕された、だけど…証拠不十分で不起訴にされたの」
「そしてサッカーへの復讐という夢を叶えるために、世宇子という新たな学校の総帥となり、再び俺たちの前に立ち塞がった」
「明日の、フットボールフロンティア決勝戦の対戦相手よ」
薊がわずかに反応を示す。
「私たちは何としても勝たなきゃいけない。でないと、影山はずっとその悪事を繰り返し続ける」
「ああ、それを止めなければいけないな」
「…あの人の間違いは、家族である私が正す。影山に引き取られ帝国に転校し、その実態を知ったあの日から…私はずっとその信念を貫き行動してきたの」
薊がAへ顔を向ける。その表情は複雑で、言葉で形容することができない。
「影山を相手にする上で、私は色んな覚悟を決めたわ。時には命の危険でさえも顧みなかった。そんな私個人の戦いに…薊のことを巻き込みたくなかったの」
「その気持ちは俺も同じだ。だから薊には何も伝えられなくて、その結果嫌な思いをさせてしまって悪かった」
「私たちがよかれと思ってやっていたことは、結果として薊を傷つけてしまってたなんて、思いもしなかったわ」
そう言って2人は頭を下げた。
「…私はただ」
すると、少し間をあけて薊が口を開いた。
「私はただ、寂しかっただけなの。有人君は滅多に来てくれないし、毎日来てくれてたAがある日からあまり来てくれなくなっちゃって…また1人ぼっちになった」
「薊…」
「…まさかかそんな大変なことになってたなんて、私も思ってもいなかった」
薊は改めて2人に向き直る。
「私の方こそ、この前はあんなこと言っちゃってごめんね。自由に動けて、サッカーしてる2人が羨ましくて…」
「薊が謝ることなんてないわ。あの時の事故だって、私の不注意で…」
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作者名：紫苑 | 作成日時：2023年10月3日 0時
