第１章─９話 少女の提案 ページ10
二人がそんな話をしている一方、突然の事態に驚いているのは雷門側だけではなかった。
「ええ…怪我人を運んだだけです。こちらに支障はありません」
帝国キャプテン、鬼道は何者かと無線で話し込んでいる様子だ。
「我々の任務に変わりはありません。アイツを…豪炎寺修也を、必ずや引きずり出します」
そこで会話が終わったのか、鬼道はそれ以降黙り込んだ。ゴーグルに覆われたその瞳は、何かを話し込むA達を見つめているようだった。
「どういうことだよ、A！」
フィールドに突然そんな叫び声がこだまする。その声を受け、倒れ込んでいた雷門の部員達が起き上がろうとしている。
「お前が風丸の代わりに試合に出るって…」
「そのままの意味よ。風丸君が怪我をして、どの道こっちは10人になったんだし、悪い話ではないと思うけど？」
Aはベンチに視線を向け、そう告げる。雷門が10人になったことを受けてAが提案したのは、自身が離脱した風丸の代わりに試合に出るというものだった。
「控え用のユニフォームが余ってるでしょう？すぐに着替えて来るから、それまで帝国にも待ってもらって」
「おい、本気なのかよ！帝国と試合するって…大丈夫なのか！？」
保健室へ入ろうとするAに、円堂は慌ててそう叫ぶ。
「…諦めない心、か…昔は、そんなの持ってたのかしらね」
「え…？」
「安心してよ、私…きっとあなたが思ってる何倍も強いから」
振り返らずにそう言うと、Aは部室がある方向へと消えていった。
「おや？あれは…」
実況の角馬が思わず漏らした声に釣られ、グラウンドにいる全員の視線が校舎の入り口の方へと向けられる。そこからフィールドへと近付いてくるのは、雷門のユニフォームを身に纏い、長い髪をひとつに高く結んだAだった。
「何と！先程の女子生徒がサッカー部のユニフォームを着ているではありませんか！」
「皆起きたのね、よかった。さ、これで元通り、11人揃ったわ」
「お前…円堂の言う通り、本当に試合すんのか？」
「あなた染岡…だっけ？悪いんだけど、そこのポジション代わってくれない？私フォワードなの」
「おい待て。お前、何考えてるんだ？」
染岡の質問にそう答える紫苑に声を上げたのは、帝国の寺門だった。Aは面倒くさそうな表情で彼にこう告げる。
「ただの選手交代よ。これは正式な試合じゃないし、女一人いたって問題ないわよね？」
「だからと言って──」
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作者名：紫苑 | 作成日時：2023年2月19日 1時
