第１章─５話 試合開始 ページ6
その後、壁山は帝国に恐れをなし、校内のロッカーの中に隠れていたところを無事発見された。もうすぐ試合が開始される。
「あのー…」
ベンチに腰掛け、成り行きを見守っている木野とAに、青い髪の少女が話しかけた。
「ここで一緒に見ててもいいですか？」
二人の返事を待たず、その少女はAの隣に腰掛け、自己紹介をした。
「私、新聞部の音無春奈です！どうぞよろしく！」
「…！」
「取材ね、どうぞ！」
木野が快く返事をする。
「やっと11人揃ったんですね。よかった…それで？」
「それで？」
木野が音無の言葉を復唱する。
「勝つ自信は？」
「勝つ自信？あるかないかって言われたら…ない」
「えぇー、やっぱり…」
「でも、あの円堂君と皆を見ていると、勝つかも…何だか、そんな気がしてきちゃうのよねー」
そう話す木野を、Aと音無は横目で見ている。
「まだまだ始まったばかりのサッカー部だけど…」
「うわぁ、かっこいい…今のコメント、使わせてもらいますね！」
「え、え…？」
木野の言葉を目を輝かせながらメモ帳に書き込む音無と、気恥ずかしそうに数回瞬きをする木野。Aは二人が話す最中ちっとも口を開かず、その瞳はずっと音無を見つめているようだった。
グラウンドが何とも言えぬ空気に包まれてる中、耳に飛び込んできたのは審判の叫び声だった。
「鬼道君、コイントスを！」
先行後攻を決めるためのコイントスを行おうとせず、鬼道がポジションへ付こうとしたようだ。
「必要ない。好きに始めろ」
鬼道はそう言い、マントを翻しポジションについた。
「挑戦です！これは、我が雷門に対する帝国の挑戦です！」
「何ですか？あなた」
「はい！小生、将棋部の角馬圭太。本日は私が実況解説を務めさせて頂きます」
どうやらこの試合は実況解説つきのようだ。
そして、ついに雷門からのキックオフで試合が開始される。雷門は帝国の防御を躱し、ゴールへ迫る。
「へぇ…結構やるのね」
「いい感じですね！」
Aと音無が同時にそう言った。
そして宍戸からパスを受けた染岡が、空中から帝国ゴールへと完璧なシュートを放つ。
「…何っ！？」
完璧に思われたシュートだが、帝国キーパーの源田はいとも簡単にボールをキャッチして見せた。
「惜しかった…惜しかったぁ！」
実況の角馬が残念そうな声を上げる。
「鬼道、俺の仕事はここまでだ」
源田はそう叫ぶと、鬼道へボールを投げる。それを受け取ると、鬼道は怪しく微笑んだ。
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作者名：紫苑 | 作成日時：2023年2月19日 1時
