第３章─13話 久々に会う彼女 ページ46
その日の放課後。Aは野生中から帰るその足で病院へ向かっていた。
「え…A？」
病室の扉を開け中に入ると、自分の姿を捕えるなり酷く驚いた表情を浮べる薊と目が合った。
「薊…久しぶり」
「びっくりした…ホントに久しぶりだね！」
Aは薊の元に近づき、ベッドの傍にある椅子に腰掛ける。
「来てくれて嬉しいよー。忙しかったの？」
「うん、試合とか色々あって」
「そっか…A来なくて寂しかったけど、それなら仕方ないね」
「ごめんね…忙しくて」
「ううん、AにはAの生活があるんだもん。それに無理して欲しくないし」
そう言って薊は笑った。以前感じた違和感は感じない、ごく自然な笑顔だった。そんな薊の様子に、Aは軽い安堵の気持ちを覚えた。
「あ、そういえば！」
薊は何かを思い出したようにそう言うと、ベッドのサイドテーブルに飾ってある花を指差しながらそう言った。
「あの花ね、この前有人くんが持ってきてくれたんだよ！」
「え、有人、ここに来たの？」
「ついこの間。久々に来てくれて嬉しかったなー」
「そっか…」
Aは何かを考え込む表情を浮かべる。
「…有人、何か言ってた？」
「んー？特には、忙しいってすぐ帰っちゃったんだ…あ、でも」
薊はそういえば、と前置きして続けた。
「あまり元気ないみたいだったよ。A、何か知ってる？」
「…ううん、私たちも最近会ってないから」
「そうなんだ、皆忙しいんだねぇ」
薊は他人事だと言わんばかりの様子だ。
「でも、Aもあまり元気なさそうだね」
「…そう？」
「うん、疲れてる感じがする」
「…今日試合だったの」
「え、そうなの！？疲れてる時にわざわざ来なくていいって言ってるのに…」
「最近来てなかったから…」
「でもAに無理して欲しくないよ！来れる時に来てくれればいいの！」
「うん…ごめん、ありがとう」
薊は優しいな、とAは思った。
「それで、試合どうだった？勝てた？」
「ええ」
「そうなんだ！それはよかった！」
「………」
「私もAの仲間たちのカッコイイとこ見たかったなー」
そう言って、薊は恨めしそうに自身の足に巻かれたギプスを見つめた。
「怪我が治ったら、一緒にサッカーしよう。約束よ」
「うん、絶対！約束だよ！」
薊は笑顔を浮かべ、そう言った。いつも何らと変わらない、元気で軽快な様子の薊にAは心から安心した。
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作者名：紫苑 | 作成日時：2023年2月19日 1時
