第２章─11話 少女の目的 ページ27
「…ねぇ、Aちゃんって──」
「…？」
音無はそこまで言いかけて、口を閉ざした。
「…ううん、何でもない。私達も河川敷に行こう！」
「…ええ」
2人の間には、どこか気まずい雰囲気が漂っていた。彼女たちに過去何があったのかは、彼女達しか知る由もなかった。
A達が河川敷に着いた時、皆は既に練習を始めていた。そして河川敷を見下ろすように架かる橋には、彼らを見守る1人の少年の姿があった。
「豪炎寺修也はあの日、試合から逃げ出した」
「…！」
背後からそう声をかけられ、豪炎寺は振り返る。そこにいたのはAだった。
「私はずっとそう思ってた」
「………」
「妹が事故に遭ったなんて…知らなかった」
そう話すAは俯いており、豪炎寺からは彼女の表情がよく見えない。ただあまり晴れていないことだけは伺えた。
「私は──」
「お前の目的は何だ？」
「…え？」
豪炎寺はAの言葉を遮ってそう言った。
「思い出したんだ、お前のこと。どこかで見かけたと思ってたが、思い出せなかった」
「………」
「去年の決勝だ」
2人はそう遠くない過去のことを思い出す。
「夕香の事故の話を受けて、俺は病院へ向かった。その時スタジアムで…帝国の女子生徒とぶつかったんだ」
「………」
「男子校の帝国にいた唯一の女子生徒。それが“理事長”の娘であることは有名だった」
Aはバツが悪そうな表情を浮かべる。
「この前、学校でお前とぶつかった時に思い出したんだ…前も同じことがあったと」
「…そう」
「雷門に何の用だ？何のために俺に近付いた？」
「…私の正体、バレたくなかったんだけどな」
Aは視線を河川敷で練習する雷門の皆に向けた。
「特にあなたには」
「…お前は帝国との練習試合で、帝国ではなく雷門に力を貸した。その理由がどうしても分からなかった」
「…そんなの単純よ」
「…何だ」
「私は、帝国の味方ではないってこと」
「…その話を信じろと？」
「事実、私はこの前の練習試合で雷門に力を貸した。私が帝国の味方で雷門を潰すことが目的なら、あの時あなたにパスを出したりはしないわ」
「…じゃあ、お前が帝国側の人間ではないとして、目的は？お前は何がしたい？」
「…その質問は難しいな。正直…自分でもよく分かってない」
「…何だと？」
「あえて言うなら…私には助けたい人がいるの」
「…？」
「私の恩人…その人を助けるためなら何でもする。私が雷門中に来たのはそのためよ」
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作者名：紫苑 | 作成日時：2023年2月19日 1時
