第２章─３話 理事長の娘 ページ19
「ああ…うん、いいんじゃない？」
「そうか！じいちゃんのノートを参考にしたんだ」
「ノート？」
そう聞かれると、円堂は自身の席から一冊のノートを取り出し、Aに見せた。
「これだ。じいちゃんが残した大切なノートなんだぜ」
手渡されたAは、ノートをパラパラめくってみる。
「円堂、これ…読めるの？」
「ああ！もちろん！」
「そう…字が独特すぎて、私にはさっぱり」
それでも何となく、必殺技に関することが書かれているのではないかとAは思った。
「でもこのフォーメーションは各々の役割が確立してるから、今のままでは厳しいかも」
「そうか…あ、そうだA、今日の放課後、サッカー部の練習付き合ってくれないか？」
「え？」
「お前中々サッカーに詳しそうだし、あ、いっそサッカー部に入ってくれよ！」
目を輝かせ両手を握りそう言う円堂に、Aはたじろぎ困惑の表情を浮かべる。
「いや、入部は──」
「な、いいだろ！」
「………」
有無を言わせない円堂に呆れ、Aは今日の放課後に顔を出すことだけ渋々了承した。
そして迎えた放課後。Aは約束通りサッカー部の部室に顔を出していた。
「あれ、Aじゃないか。何でここに？」
「円堂に誘われて。風丸は、もう怪我は大丈夫？」
「ああ、お前のおかげでな」
その後円堂は昼間にAへ見せたフォーメーションを部員たちと共有した。
「えぇー！僕フォワードじゃないの！？」
不満そうに声を上げたのは目金だった。彼がまだサッカー部にいたことに、Aは心底驚いた。
「逃げた奴が何言ってんだ」
「戦略的撤退、と言って欲しいですね」
ぶっきらぼうな染岡にそう言われた目金は、チッチと指を振って答えた。
するとその時、部室の扉が勢いよく開かれた。
「皆、お客さんよ！」
そう言いながら入ってきたのは木野だった。
「どうぞ」
木野は自分の背後にいる何者かを促した。その人物は、Aにとっては見慣れない女子生徒だった。
「…あら、あなたもいらしたのね」
その女子生徒はAへ向けてそう言った。
「ん？私？あなた誰？」
「なんだA、知らねぇのか？」
染岡が口を開く。
「こいつは理事長の娘だよ」
「…ああ、じゃああなたが雷門夏未」
理事長の娘──この学校の経営まで任されているという噂の、生粋のお嬢様だ。
「次の対戦相手を決めてあげたわ」
形だけとはいえ、帝国に事実上の勝利を収めたことはかなり噂になっているようだ。
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作者名：紫苑 | 作成日時：2023年2月19日 1時
