第１章─１話 不思議な転校生 ページ2
《第１章─決別》
長く黒い髪を靡かせながら教室に入ってきたその少女は、どこか不思議な雰囲気があった。
「今日から我が雷門中に転校してきた藤堂Aさんです。皆さん、仲良くしてあげて下さいね」
Aと呼ばれた少女は、その紅い瞳で教室をゆっくり見渡した。
「さあ藤堂さん、挨拶して」
「…藤堂、Aです」
それだけ口にして、少女は口を閉じる。彼女はこれでもかと言うほどに他人を寄せ付けない雰囲気を醸し出していた。
担任教師が窓際の一番後ろの席へ着席を促すと、彼女ははいと小さく返事をし、言われるがままその席に腰掛けた。
「今日の朝会はこれで終わりです。一限目の準備をして下さい」
担任教師の言葉を合図に、生徒達は各々自由に行動を始める。友人の元へ行く者、授業の準備をする者…その中に、転校してきたAに話しかける者は誰もいなかった。
彼女もまたそれでいいと言わんばかりの澄ました表情で、退屈そうに窓の外を見つめている。
「なあ円堂、今日も部員集めするのか？」
「もちろん！半田も手伝ってくれよー」
教室内にそんな会話が響く。
「まさか、こんな弱小サッカー部相手に練習試合の申し込みなんてな…大体、何で試合引き受けたんだよ？相手はあの“帝国”だぞ？」
「しょうがないだろ！廃部って言われたらさ」
「つってもなぁ、勝てないって分かってる試合をする意味なんてないんじゃないか？」
「何言ってるんだ！勝ち負けなんて試合しなきゃ分からないだろ！」
「そもそも、明日の試合までに足りない部員集まるのかよ…」
それから円堂と半田という少年達は言い合いを始める。その様子を、Aは遠目で見つめていた。
その日の放課後。ボロボロの小屋──サッカー部の部室前に、見慣れない人物がいることに円堂は気が付いた。
「あれ、お前は…」
「…あなた、確かサッカー部の人よね？」
「ああ、俺達のクラスに転校してきたやつだよな！どうしたんだ？ここはサッカー部の部室だぜ」
転校してきた少女…Aはゆっくり口を開く。
「明日、帝国学園と練習試合をするって話してたけど…あれ本当？」
「ああ、そうだ。それがどうかしたか？」
円堂の返事に、Aは何かを考え込む素振りを見せる。
「いや…別に」
「？なんだお前、サッカーに興味あるのか？」
「………」
円堂の質問には答えず、Aは円堂に背を向けどこかへ立ち去ってしまった。円堂はその場に立ち尽くす。
「何だったんだ？アイツ…」
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作者名：紫苑 | 作成日時：2023年2月19日 1時
