第10話 ページ10
ある日の、社交ダンスの講義
八人の中で一番動きがぎこちなかった小田切が、私を相手に踊ることとなった。
講師として教壇に立っているのは結城中佐で、私の社交ダンスの腕前を知っている故の措置だった。
「貴様はAの動きに合わせろ」
「分かりました」
蓄音機から華やかな音楽が流れ始める。
素人目に見れば上手く踊っているのだろうが、小田切の身体は固まって、しなやかとは言い難いのを私がリードした。
「次は小田切、貴様がリードしろ」
一曲終わり、また同じ曲が流れ始める。
流石はD機関、先程の動きを記憶してしなやかに踊っている。
小田切は何処か穏やかな眼差しで私を見ていた。
「…三好、どう感じた」
「強引さに欠けますね。リードしている、とは言えません」
「A」と結城中佐が此方を見遣る。
「相手を自分のペースで踊らせるには少し遠慮し過ぎかと」
結城中佐が、小田切を見つめた。私の横に立つ小田切は、芯の強そうな目でそれを受け止めている。
「……実井が相手をしろ。リードをするのは貴様だ小田切」
「はい」
実井と入れ替わり、退屈そうに眺める機関員達の横に並ぶ。
曲が始まると、小田切はしなやかな動きで相手をリードした。
ステップもターンも、実井が小田切に合わせている印象だった。
「貴様は女が苦手なのか?」と、陽気に笑いながら神永が声をかける。
「……」
「あまり無口だと、女にモテないぞ」
「ああ、そうだろうな」
小田切は眉一つ動かさずに答えた。
「こんなつまらない男は嫌だね。Aもそう思わないか?」
「真面目で寡黙な方は信頼を得やすいからいいと思いますよ」
「巧い言い回しだな。そういう強かな女は嫌いじゃない」
神永は声をたてずに、口許に笑みを浮かべる。私も真似をした。
「光栄です」
「A、もう一度小田切の相手をしろ」
「分かりました」
前に出ると、小田切は「すまない」と呟くように言った。答える代わりに私が微笑むと、そろそろ聴き飽きた音楽が流れ始める。
今度は私がリードするまでもなく、小田切は程好い力加減で私を動かし、慣れた動きでステップを踏んだ。
「…先程よりはマシと言った所だな…今日はここまでだ、各自解散しろ」
機関員達はぞろぞろと部屋を出る。
私も自室に戻ると、白いつば広帽子とクラッチバッグを手にとった。
すると閉めたばかりの扉からノックが響く。間隔が短く軽い、丁寧さに欠ける音…
扉を開けると、予想通りの人物が立っていた。
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凛々(プロフ) - とても面白かったです!!原作のイメージが全く崩れないっtとりとした雰囲気が最高でした。蝶のくだりは思わず泣きました。素敵なお話を書いてくださってありがとうございます。このお話に出会えて良かったです。 (2019年12月18日 0時) (レス) id: 2ad6838eaa (このIDを非表示/違反報告)
こな(プロフ) - 燐さん» 返信が遅くなり申し訳ありません!とんでもないです、ありがとうございます!楽しんで頂けたようで嬉しく思います(^^) (2018年10月22日 11時) (レス) id: 6c36d7dbcf (このIDを非表示/違反報告)
燐 - めっちゃ切ない…!文才ハンパないっすね。展開もリアルで面白かったです!ラスト、三好さんの声が聞こえたトコロめっちゃ感動しました! (2018年10月16日 22時) (レス) id: 6e4e502025 (このIDを非表示/違反報告)
こな(プロフ) - 信乃さん» ありがとうございます!そう言ってくださる読者様のおかげです(;;)最後まで読んでくださりありがとうございました! (2018年10月15日 0時) (レス) id: 6c36d7dbcf (このIDを非表示/違反報告)
信乃(プロフ) - 完結おめでとうございます。毎回更新が楽しみでした!楽しく読ませていただきありがとうございました。 (2018年10月14日 21時) (レス) id: 3929cd90dd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こな | 作成日時:2017年5月28日 15時