第9話 ページ9
「レイズ」
「コール」
この勝負に私がのれば、賭金は三五〇
相手は私の手札を知って賭けているのだから、二人とも相当に強いカードを持っている。
だが、それが虚勢の場合もある。
乗るか、否か───────
そのとき、三好がチェスの駒を動かすのが見えた。
左から三番目の白……c4に、白のナイトが移動する。
意地悪な微笑みを横顔に張り付けていたから、それがメッセージである事は嫌でも分かった。
騎士…剣……フェンシング?
この場でcから簡単に連想できるのはcard、chessくらいなもので、4と繋げるならフォーカードが妥当
つまり、“田崎はフォーカード”
…しかしそれが嘘だとしたら
尚もジョーカーを見つめ、逡巡する私の耳に、深い沈黙を物ともしない無機質な音が聞こえる。
L i e
無意識に解読したモールス信号はその三文字で、私は驚いて顔をあげた。
音をたてたのは、三好の背後の席で煙草を吸う甘利。彼の靴が、また床を掠め、叩く。
H i g h c a r d
「…コール。フルハウス」
私は手札を明かした。神永がスリーカード、田崎は、ノーペア。これには本人も苦々しそうに、「やられたよ」と笑った。
結果は、私が最下位から一位に上がり逆転勝利。
席についたまま余韻に浸っていると、甘利が私の肩を叩く。
「お疲れ様」
食堂から人が減り、チェスに勝った三好と、食器を拭く福本と、私だけになった。
煙草の煙は、部屋に入った時より大分薄まっている。
「貴女があのゲームの仕組みに気付くとは、予想外でした」
「そうでしょうね」
「何故、僕より甘利を? 貸があるだけでは信用に価しないものですが」
「だって、貴方は意地悪ですもの」
三好が含み笑いをする。品定めするような眼を私に向けて。
「貴女は得ですね。外見で油断させる事が出来ますから、スパイには向いていますよ」
言葉遣いは丁寧だが、言ってる内容は波多野と変わらない。“見た目のわりに察しがいいな”だ。
「光栄です」
「…Aさんは、夜戸出は禁止されているんでしたね」
「ええ」
「残念です」
「夜でなければご一緒できますよ」
三好は小馬鹿にした風に鼻で笑った。
「日が出ている内では、ムードが無いでしょう?」
…綺麗な顔をしているくせに、この見下した態度には閉口する。私は立ち上がった。
三好は私を見上げて動かない。
「お休みなさい」
「ええ、三好さんも、あまり夜更かしなさらないで下さいね」
「平気ですよ、僕は。…まぁ、貴女がそう言うなら気を付けます」
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凛々(プロフ) - とても面白かったです!!原作のイメージが全く崩れないっtとりとした雰囲気が最高でした。蝶のくだりは思わず泣きました。素敵なお話を書いてくださってありがとうございます。このお話に出会えて良かったです。 (2019年12月18日 0時) (レス) id: 2ad6838eaa (このIDを非表示/違反報告)
こな(プロフ) - 燐さん» 返信が遅くなり申し訳ありません!とんでもないです、ありがとうございます!楽しんで頂けたようで嬉しく思います(^^) (2018年10月22日 11時) (レス) id: 6c36d7dbcf (このIDを非表示/違反報告)
燐 - めっちゃ切ない…!文才ハンパないっすね。展開もリアルで面白かったです!ラスト、三好さんの声が聞こえたトコロめっちゃ感動しました! (2018年10月16日 22時) (レス) id: 6e4e502025 (このIDを非表示/違反報告)
こな(プロフ) - 信乃さん» ありがとうございます!そう言ってくださる読者様のおかげです(;;)最後まで読んでくださりありがとうございました! (2018年10月15日 0時) (レス) id: 6c36d7dbcf (このIDを非表示/違反報告)
信乃(プロフ) - 完結おめでとうございます。毎回更新が楽しみでした!楽しく読ませていただきありがとうございました。 (2018年10月14日 21時) (レス) id: 3929cd90dd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こな | 作成日時:2017年5月28日 15時