第8話 ページ8
食堂の扉を開けると、買い出し帰りの私を煙草の煙が出迎えた。
咽返りそうな空気の中、端のテーブルに二人、真ん中の丸テーブルに三人の姿がある。
「お帰り」
煙草を片手に、丸テーブルの横に着いていた甘利が私を横目で見る。
「俺はAと交代するよ」
そう言って席を立った。
「私の勝ちにいくら賭けます?」
「うーん…じゃあ、二円で」
「煙草よりずっと高いじゃありませんか。…これじゃ敗けられませんね」
甘利は声を出さずに笑った。その眼は挑戦的な色を浮かべている。
「林檎、ありがとう。お陰さまで助かったよ」
私が頷くと、手から林檎を受け取って、先程自分が座っていた席を勧めた。
「お手並み拝見だな」と田崎
「悪いけど、ゲームでは手加減出来ないな」と神永。
「お手柔らかに」
机の上には五枚のトランプが置かれていた。正面の田崎が、華麗な手捌きでカードを切っている。
「さて、始めようか。持ち点五五〇からのポーカーだ」
「ジョーカーは」
「有りだ」
手札を見る。
きゅっきゅっと耳慣れない音がするので振り向くと、いつの間にか割烹着姿の福本がカウンターの向こうに控えていた。
田崎の向こう側では、三好と小田切が静かにチェスをしている。
「二十」
田崎から時計回りで開始した。取り敢えず、様子を探る他ない。
「コール」
「コール」
「ツーペアだ」
「ツーペア」
「…ワンペアです」
神永が四十点獲得する。その後も私は勝つことなく、ゲームは進行していく。
「Aは、ゲームは得意じゃないのかな」
「ええ、貴方がたとやるゲームは特に」
「ははは…」
田崎は手腕に似合わず、穏和そうな笑顔を見せた。
「田崎さんは、ゲームの他に特技はお有りで?」
「俺かい? そうだなぁ…手品なんかは得意だよ」
「それと、フェンシングだな」と田崎に点を越された神永が付け足す。
最中、小田切の指が机を叩く不規則な音が気になった。
…この部屋には、煙草の煙以外にも私を惑わすものがあるらしい
随分と面倒な遊びだこと。
途方にくれてカードを引く私の元に、ジョーカーはやってくる。
「五十」
恐らく今回も、私の手札は知られているのだろう。田崎は余裕の笑みで「レイズ」と答えた。
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凛々(プロフ) - とても面白かったです!!原作のイメージが全く崩れないっtとりとした雰囲気が最高でした。蝶のくだりは思わず泣きました。素敵なお話を書いてくださってありがとうございます。このお話に出会えて良かったです。 (2019年12月18日 0時) (レス) id: 2ad6838eaa (このIDを非表示/違反報告)
こな(プロフ) - 燐さん» 返信が遅くなり申し訳ありません!とんでもないです、ありがとうございます!楽しんで頂けたようで嬉しく思います(^^) (2018年10月22日 11時) (レス) id: 6c36d7dbcf (このIDを非表示/違反報告)
燐 - めっちゃ切ない…!文才ハンパないっすね。展開もリアルで面白かったです!ラスト、三好さんの声が聞こえたトコロめっちゃ感動しました! (2018年10月16日 22時) (レス) id: 6e4e502025 (このIDを非表示/違反報告)
こな(プロフ) - 信乃さん» ありがとうございます!そう言ってくださる読者様のおかげです(;;)最後まで読んでくださりありがとうございました! (2018年10月15日 0時) (レス) id: 6c36d7dbcf (このIDを非表示/違反報告)
信乃(プロフ) - 完結おめでとうございます。毎回更新が楽しみでした!楽しく読ませていただきありがとうございました。 (2018年10月14日 21時) (レス) id: 3929cd90dd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こな | 作成日時:2017年5月28日 15時