第４２話 ページ42
不意に目が醒めた。
今が何時なのか定かでないが、窓から差し込む月の光は、机上に置かれた二輪差しの破片を仄かに照らしている。
そこに、どこからやって来たのか、白く美しい蝶が破片に降りたった。
私にはその蝶が白い種類なのかアルビノなのかは分からない。そもそもの話、その蝶がこの世のものなのかさえ分からなかった。
月光を吸うように淡く光って揺らぐ白い羽は、まるで現実味がない。
やがて蝶は、月光の袂から逃れて闇へと消えた。
「あっ、待って！」
慌てて布団を剥いで、素足に靴を履いていた。
婦女子が寝間着のまま私室から出るなどはしたない
と、母や佐久間中尉ならそう言うだろう。
それでもあの蝶を見失うわけには絶対にいかない。
見失ったら、私は一生夢の中に閉じ込められて、“真実は二度と見えない”のだと
あの蝶は、私を私として生かす唯一の救いなのだと、今まで働いたことのない直感が告げている。
体当たりするように扉をおして廊下に出た。二階は勿論、下の階からも人の気配はしない。
ただ淡い光を纏う蝶が、夜の満ちた食堂へと私を誘った。
割ってしまった二輪差しで下を向く、これまた月光を浴びた美しい白百合に、白い蝶はとまった────…それも束の間、蝶は白百合に寄り添うようにして光を失った。その姿は最早透明で、私の瞳には写らない。
白百合の花弁の一枚が、音もなくカウンターに落ちた。
それを見たとき、涙が一筋落ちたかと思うと、次から次へと止まらなくなった。
袖でいくら擦っても、頬は濡れるばかりで、途中で拭うのを諦める私だった。
こんな顔、三好が見たら何と言うだろう
「醜い」と露骨に蔑む姿も容易に想像つくけれど、きっと「お化粧が落ちますよ」だとか言って、ハンケチでも差し出してくれるのでしょう？
「そう…三好さん、案外優しかったのね」
「意地悪とか言ってごめんなさい」と謝ってみたが、嗚咽が混じって自分でも聞き取るのが困難だった。
「…手紙は寄越さなかったくせして。別れの挨拶のつもりです？」
今まで─────三好に出会うまで見えていた世界。出会ってから見えなくなった世界。
それよりももっと救いようがなくて、澄んでいる世界が、今の私の瞳には写っていた。
真実が、手の届く距離に、戻ってきていた。
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凛々(プロフ) - とても面白かったです！！原作のイメージが全く崩れないっtとりとした雰囲気が最高でした。蝶のくだりは思わず泣きました。素敵なお話を書いてくださってありがとうございます。このお話に出会えて良かったです。 (2019年12月18日 0時) (
レス) id: 2ad6838eaa (このIDを非表示/違反報告)
こな(プロフ) - 燐さん» 返信が遅くなり申し訳ありません！とんでもないです、ありがとうございます！楽しんで頂けたようで嬉しく思います(^^) (2018年10月22日 11時) (レス) id: 6c36d7dbcf (このIDを非表示/違反報告)
燐 - めっちゃ切ない…!文才ハンパないっすね。展開もリアルで面白かったです！ラスト、三好さんの声が聞こえたトコロめっちゃ感動しました！ (2018年10月16日 22時) (レス) id: 6e4e502025 (このIDを非表示/違反報告)
こな(プロフ) - 信乃さん» ありがとうございます！そう言ってくださる読者様のおかげです(;;)最後まで読んでくださりありがとうございました！ (2018年10月15日 0時) (レス) id: 6c36d7dbcf (このIDを非表示/違反報告)
信乃(プロフ) - 完結おめでとうございます。毎回更新が楽しみでした！楽しく読ませていただきありがとうございました。 (2018年10月14日 21時) (レス) id: 3929cd90dd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：こな | 作成日時：2017年5月28日 15時
