第32話 夢と白昼夢 ページ32
「……化け物になっても…死ぬときはやっぱり人間に戻るのね」
そう呟いたとき、私の手の指や足先は、感覚が無いほどに冷えきっていた。
「“魔術師”なら、時間を戻したり、平行世界に移動したり…できるのかしら」
吐く息は白く、空気はむき出しの頬に刺さるように凍えているのに、地面には緑が広がっている。
何処かで─────恐らく近くの教会だろう、鐘の鳴る音がした。
「平行世界のAさんが、ここにいるAさんより恵まれている保証はありませんが?」
見るからに高価なコートを纏って、三好は呆れたように笑った。
「平行世界に移動するのは私じゃないもの」
「可能だとして、今の状況を変えようとは思いません」
「何故? 三好さん、私より冷えているのに」
血の気が引いて真っ白い、細くしなやかな指。それらを壊してしまわないよう、私は慎重に三好の両手を包んだ。
見上げると、三好は不快そうな顔をした。
手も視線も氷のような冷たさだった。
「選びとる答えは、僕が今まで選択した結果によって決まっています……だから、どう足掻いても、最期は変わらないんです」
「それで構わないんですか?」
「構うと言ったところで、変えようがありませんから」
三好は私の手をほどいて、吹雪の中へ歩いていく。
─────引き留めたらきっと、先程と同じ冷ややかな視線を貰うだけなのだろう。
私は立ち止まったまま、背を向けて遠ざかる三好に声を張り上げた。
「何故わざわざそちらに行くんです!」
「…言うまでもなく、こちらが僕の居場所だからですよ」
三好は少し振り返って肩を竦めた。挑発的な吊目に宿る眼光は、一寸の迷いもなく、そこに在る。
「三好さんの行き着く先は、そんなに価値在る場所でしょうか」
「何に価値を見出だすかなんて、人それぞれだと思いますが」
「私には理解できません」
「そうでしょうね」
「Aさんはただ、理解できない僕のことなど放って、そのまま暖かい場所に居て下さい。─────それで満足なら、の話ですが」
意地悪な笑みを残すと、三好は真正面を見据えて、また歩き出した。
ゆっくり、確実に、灰色の凍えるような吹雪の中へ──────…
私の手はもう、届くことはない。
101人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
凛々(プロフ) - とても面白かったです!!原作のイメージが全く崩れないっtとりとした雰囲気が最高でした。蝶のくだりは思わず泣きました。素敵なお話を書いてくださってありがとうございます。このお話に出会えて良かったです。 (2019年12月18日 0時) (レス) id: 2ad6838eaa (このIDを非表示/違反報告)
こな(プロフ) - 燐さん» 返信が遅くなり申し訳ありません!とんでもないです、ありがとうございます!楽しんで頂けたようで嬉しく思います(^^) (2018年10月22日 11時) (レス) id: 6c36d7dbcf (このIDを非表示/違反報告)
燐 - めっちゃ切ない…!文才ハンパないっすね。展開もリアルで面白かったです!ラスト、三好さんの声が聞こえたトコロめっちゃ感動しました! (2018年10月16日 22時) (レス) id: 6e4e502025 (このIDを非表示/違反報告)
こな(プロフ) - 信乃さん» ありがとうございます!そう言ってくださる読者様のおかげです(;;)最後まで読んでくださりありがとうございました! (2018年10月15日 0時) (レス) id: 6c36d7dbcf (このIDを非表示/違反報告)
信乃(プロフ) - 完結おめでとうございます。毎回更新が楽しみでした!楽しく読ませていただきありがとうございました。 (2018年10月14日 21時) (レス) id: 3929cd90dd (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:こな | 作成日時:2017年5月28日 15時