第4話 ページ4
「っう…的確に脛を狙う辺り、強かだぞ、こいつ」
波多野は疲れきった顔で三好に告げた。三好の方は「甘く見た貴様が油断しただけだ」と吐き捨てた。
「余計なお世話だよ! …A、付き合わせて悪かった」
「平気。此方こそ蹴って悪かったわ」
私は数歩退いて、三好の元から離れる。「それと、ありがとう。地面に手をつかずに済みました」
「ええ、今後は身の丈に合った行動をお奨めします…期待に応えようとする心意気は評価に値しますが」
それから嫌みっぽく笑った。上から目線なのは相変わらずらしい。
「それでは、失礼します」と残して、暗い臙脂色の背広が屋内に消えた。
「…波多野さん」
「波多野でいい」
「波多野、三好さんはナルシストなのね」
「…自覚は無いらしいがな」
階段の踊場は相変わらず暗く、一階の廊下に出てもそれは変わらない。不思議に思って窓の外を見ると、外は既に日が落ちていた。
早いものだ。
自室に戻ってもする事がないので、私はそのまま食堂を覗く。
中には実井と、割烹着を着た福本の姿があった。
「ご一緒しても?」
「勿論構いませんよ」
「……」
「彼は寡黙なんです。気にしないで下さい」
私は実井の二つ隣の席に座る。
「折角なのでお訊きしますが、どちらからいらしたんです?」
「イギリスです」
「へぇ…どうしてまたあんな国に」
“あんな国”と人当たりの良い笑顔で言う辺り、悪気はないんだろうな…
「料理は確かに、美味しいとは言い難いですけれど、母がイギリスに住んでいたので」
「では、Aさんは英国出身ですか」
「ええ。父母とも日本人ですけれどね」
果たして、この人はどこまで見抜くのだろう?
私の嘘を。
「元スパイだと伺っていますが…諜報活動は、英国で?」
「そうですよ。結城中佐に呼ばれるまでは、向こうに居ましたから」
「成る程」
皆、探ろうとしているのだ。魔王とまで呼ばれる結城中佐の過去と、ついでに余所者スパイの手腕を。
「所で福本さんは、毎日三食作ってらっしゃるんですか?」
「…夜は大抵、皆外だから作っていない」
「今夜も出掛ける予定ですが、Aさんも行きますか?」
大きめの瞳がまた、探るように動く。
「残念ながら、夜戸出は中佐に禁止されていて…」
私は大袈裟にため息を吐いた。
「確かに、女性が夜更けに出歩くのは常識的とは言い難いですよね。無理なお誘いをして申し訳有りません」
「いえ、休講日にまたお願いします」
「そうします」
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凛々(プロフ) - とても面白かったです!!原作のイメージが全く崩れないっtとりとした雰囲気が最高でした。蝶のくだりは思わず泣きました。素敵なお話を書いてくださってありがとうございます。このお話に出会えて良かったです。 (2019年12月18日 0時) (レス) id: 2ad6838eaa (このIDを非表示/違反報告)
こな(プロフ) - 燐さん» 返信が遅くなり申し訳ありません!とんでもないです、ありがとうございます!楽しんで頂けたようで嬉しく思います(^^) (2018年10月22日 11時) (レス) id: 6c36d7dbcf (このIDを非表示/違反報告)
燐 - めっちゃ切ない…!文才ハンパないっすね。展開もリアルで面白かったです!ラスト、三好さんの声が聞こえたトコロめっちゃ感動しました! (2018年10月16日 22時) (レス) id: 6e4e502025 (このIDを非表示/違反報告)
こな(プロフ) - 信乃さん» ありがとうございます!そう言ってくださる読者様のおかげです(;;)最後まで読んでくださりありがとうございました! (2018年10月15日 0時) (レス) id: 6c36d7dbcf (このIDを非表示/違反報告)
信乃(プロフ) - 完結おめでとうございます。毎回更新が楽しみでした!楽しく読ませていただきありがとうございました。 (2018年10月14日 21時) (レス) id: 3929cd90dd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こな | 作成日時:2017年5月28日 15時