第２６話 名残 ページ26
「貴女がここにいるなんて、珍しいですね」
そう言って屋上にやって来たのは、気さくな笑顔を浮かべた実井だった。
「あら、そうでしょうか？」
「ええ。Aさんは大抵、食堂にいるイメージでしたから」
「そう言われると、その通りですね」
彼は傍まで来ると、私と同じような格好で壁に寄りかかった。
「ここには煙草を吸いに来たんですが…Aさんは煙が苦手でしたよね」
窺うように、黒々とした大きな瞳が私を見つめる。
……女性によっては、彼の愛らしさに虜になる人も多そうだ
なんて考えながら、私は実井より風上に移動した。
「お気になさらないで下さい」
実井は「どうもすみません」と小首を傾げて微笑んだ。
空を見上げると、青々とした空の一部を灰色に薄くのびる雲が覆っている。
雨はまだ降りそうにない。
「ハッキリしない天気ですね」
「ええ」
「そういえば、佐久間さんがAさんを探していましたよ」
どの辺りが“そういえば”なのだろう？ まさか“ハッキリしない”の部分だろうか
「その内に来ると思いますが…」
指で挟んだ煙草から、薄っすら細い線のような煙が上っている。
ガタと音がして振り向くと、開いた扉の隙間に佐久間中尉が立っていた。
「……実井も一緒だったか」
「お邪魔ですか？」
「そんなことはないさ」
佐久間さんは後ろ手に扉を閉めながら、「しかし、Aがここにいるとは、珍しいな」と心底意外そうにした。
「伝書鳩の鳴き声を聴いていると落ち着くんです。この間、鳩舎の掃除をお手伝いした際に気付いて」
「そうなのか」
「ところで、私にご用件とは？」
「ああ。結城中佐から、呼び出しがあった」
「…三好さんのことかも知れませんね」
呟いた実井は興味なさげに煙草を吹かしている。その横顔には、微かに呆れも浮かんでいた。
「分かりました。わざわざありがとうございます」
私が一礼するのを、佐久間さんは神妙な面持ちで見守った。
「婦女子も苦労するものだな」
「…？」
「いや、気にするな。元スパイの貴様にとっては簡単な事かも知れん」
そう言い片手を力なく振って寄越す。
さっさといけ、と、武運を祈る、を兼ねているらしい。
私は微笑んでみせて、屋上を後にした。
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凛々(プロフ) - とても面白かったです！！原作のイメージが全く崩れないっtとりとした雰囲気が最高でした。蝶のくだりは思わず泣きました。素敵なお話を書いてくださってありがとうございます。このお話に出会えて良かったです。 (2019年12月18日 0時) (
レス) id: 2ad6838eaa (このIDを非表示/違反報告)
こな(プロフ) - 燐さん» 返信が遅くなり申し訳ありません！とんでもないです、ありがとうございます！楽しんで頂けたようで嬉しく思います(^^) (2018年10月22日 11時) (レス) id: 6c36d7dbcf (このIDを非表示/違反報告)
燐 - めっちゃ切ない…!文才ハンパないっすね。展開もリアルで面白かったです！ラスト、三好さんの声が聞こえたトコロめっちゃ感動しました！ (2018年10月16日 22時) (レス) id: 6e4e502025 (このIDを非表示/違反報告)
こな(プロフ) - 信乃さん» ありがとうございます！そう言ってくださる読者様のおかげです(;;)最後まで読んでくださりありがとうございました！ (2018年10月15日 0時) (レス) id: 6c36d7dbcf (このIDを非表示/違反報告)
信乃(プロフ) - 完結おめでとうございます。毎回更新が楽しみでした！楽しく読ませていただきありがとうございました。 (2018年10月14日 21時) (レス) id: 3929cd90dd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：こな | 作成日時：2017年5月28日 15時
