第24話 ページ24
食堂の窓から見えた空には、まだ微かに夕焼けが残っていた。
私は田崎に視線を戻して口を開く。
「結城さんが、お許しを?」
「ああ。ま、今回だけだそうだが…」
結城中佐から、佐久間さん不在での夜戸出を許された。しかし、今回限りという条件付きらしい。
「でもよかった。これでAとゆっくり話せるな」
「言って下さればお付き合いしますよ、いつだって」
「はは、それはD機関内での話だろう? もっと雰囲気のいい場所で、二人で会話を楽しみたいんだ」
田崎は爽やかな笑顔を浮かべた。脳裏に一瞬浮かんだ意地悪な微笑みとは、対照的だ。
「だから付き合ってもらえるかな。鳩舎の掃除を手伝ってくれたお礼に、居心地の良いバーを紹介するよ」
「勿論、ご一緒します」
─────その親しみやすい田崎の雰囲気に流されるまま、夜の街のバーに来たわけだが…
「あら、三好さん」
呼ばれて振り返った三好は、険しい表情をしている。
「ええと…」
田崎はここに来る前、二人で会話を楽しみたいと言った。三好がここに来る予定は無かった筈なのだ。
「神永さんと甘利さんは一緒じゃないんですね。良ければここで────」
「それは困るな、二人でゆっくり話せると思ったんだが…」
グラスの底を見つめて考え込む田崎には一瞥もくれないで、三好が口を開く。
「安心しろ、すぐに出ていってやる」
「そうか」
「それで、Aさん」
「はい?」
「“身の丈に合った行動をお奨めします…期待に応えようとする心意気は評価に値しますが”」
三好は、そのまま呆然とする私を通り過ぎ店を出た。
“浮気はやめておけ。他人に余計な気遣いはいらない”
暗にそう言い残して。
「怒らせてしまったかな」
田崎が苦笑する。私はその二つ隣───三好が座っていた席に腰掛けた。
「いいえ。以前、ほとんど同じ台詞を言われたことがあるので、一種の冗談に過ぎないんだと思いますよ」
繋ぎ止めようとするのも、怒ったふりをするのも、そういうゲームの一環だからであって…
そこに三好の真意があるとは、到底、思えなかった。
「それならいい。所で、隣に座らないのか?」
「冗談でも忠告されてしまいましたもの」
「俺なら忠告は守れないな…あんな言い方をされたら、むしろ破る」
「私だって、三好さんじゃなかったら守りませんよ」
田崎は笑顔の中に一瞬、意外そうな色を浮かべた。
「…Aは案外、三好が好きなのか」
「さあ? 怖いだけかも知れません」
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凛々(プロフ) - とても面白かったです!!原作のイメージが全く崩れないっtとりとした雰囲気が最高でした。蝶のくだりは思わず泣きました。素敵なお話を書いてくださってありがとうございます。このお話に出会えて良かったです。 (2019年12月18日 0時) (レス) id: 2ad6838eaa (このIDを非表示/違反報告)
こな(プロフ) - 燐さん» 返信が遅くなり申し訳ありません!とんでもないです、ありがとうございます!楽しんで頂けたようで嬉しく思います(^^) (2018年10月22日 11時) (レス) id: 6c36d7dbcf (このIDを非表示/違反報告)
燐 - めっちゃ切ない…!文才ハンパないっすね。展開もリアルで面白かったです!ラスト、三好さんの声が聞こえたトコロめっちゃ感動しました! (2018年10月16日 22時) (レス) id: 6e4e502025 (このIDを非表示/違反報告)
こな(プロフ) - 信乃さん» ありがとうございます!そう言ってくださる読者様のおかげです(;;)最後まで読んでくださりありがとうございました! (2018年10月15日 0時) (レス) id: 6c36d7dbcf (このIDを非表示/違反報告)
信乃(プロフ) - 完結おめでとうございます。毎回更新が楽しみでした!楽しく読ませていただきありがとうございました。 (2018年10月14日 21時) (レス) id: 3929cd90dd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こな | 作成日時:2017年5月28日 15時