第23話 ページ23
不特定多数が発した不明瞭な言葉が混じりあい、喧騒となって耳に届く。
往来する人々とネオンは目に眩しく
…快適とは言い難い。
「そんな顔をしていると、女に逃げられるぞ」
嘲るような表情で、神永が肩を叩いた。
「誘おうと思う女が居ないのに、良い顔をして何になる?」
「貴様は選りすぐるのが好きだな。こだわりなんて捨てた方が身のためだと思うが」
「そうそう、どうせ長く付き合うわけでもないんだしさぁ」
甘利がネオンの街を見つめながら言う。
…苦笑すらする気にならないが、最低限肩をすくめた。
「課題でもないのに不釣り合いな相手に気を遣うなんて、死んでも御免だ」
「言うねぇ」
甘利が吐き出す煙草の煙の向こうに、一瞬“何か”が横切った。
あまりに不意だったので、露骨に反応してしまったらしい。神永と甘利が、からかうように目配せした。
「ふん…やーっと釣り合う相手が見つかったか?」
「さぁな」
「お、じゃあ俺も、今日はあの子と呑んでこようかな」
僕と神永には一瞥もくれず、甘利はネオンの方に消えていった。
背後にあった神永の気配は、自然と遠ざかっていく─────…僕も歩き始める。
先程、ほんの一瞬横切ったのは、言うまでもなくAだ。
分かっていて“何か”と形容したのは、彼女が居ることに違和感を覚えたからだった。
僕がここに居るのを知らない筈のAが僕の視界に入ったのは、偶然ではない。仕組まれたのだろう。
彼女の傍らには誰か居た…条件から言って、恐らく田崎だが、何故…?
ネオンと喧騒から外れたバーの前で立ち止まる────重厚感のある扉だけ見れば、老舗の珈琲店のようだ。
僕は滑り込むように店内に入って、音をたてないようカウンター席に腰掛けた。
手洗いに行ったのか、Aの姿は無い。
「三好か。わざわざ追ってきてどうした?」
すぐに二つ隣の席────田崎が、周囲には聞こえない音量で話しかけてきた。
唇をほとんど動かさず、隣に座った人間でも、注視しなければ会話していることなど気付かないだろう。
「人の女に手を出す気か」
「馬鹿を言え。ただ呑みに付き合ってもらっただけさ…それで、」
「貴様は何故、俺逹を追いかけてきたんだ?」
「何…?」
「俺逹など放って、あのまま遊んでいればよかったじゃないか。それとも─────」
「あら、三好さん」
僕は席を立った。
振り向くと、僕より身長の低いAは、不思議そうな顔で僕を見上げていた。
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凛々(プロフ) - とても面白かったです!!原作のイメージが全く崩れないっtとりとした雰囲気が最高でした。蝶のくだりは思わず泣きました。素敵なお話を書いてくださってありがとうございます。このお話に出会えて良かったです。 (2019年12月18日 0時) (レス) id: 2ad6838eaa (このIDを非表示/違反報告)
こな(プロフ) - 燐さん» 返信が遅くなり申し訳ありません!とんでもないです、ありがとうございます!楽しんで頂けたようで嬉しく思います(^^) (2018年10月22日 11時) (レス) id: 6c36d7dbcf (このIDを非表示/違反報告)
燐 - めっちゃ切ない…!文才ハンパないっすね。展開もリアルで面白かったです!ラスト、三好さんの声が聞こえたトコロめっちゃ感動しました! (2018年10月16日 22時) (レス) id: 6e4e502025 (このIDを非表示/違反報告)
こな(プロフ) - 信乃さん» ありがとうございます!そう言ってくださる読者様のおかげです(;;)最後まで読んでくださりありがとうございました! (2018年10月15日 0時) (レス) id: 6c36d7dbcf (このIDを非表示/違反報告)
信乃(プロフ) - 完結おめでとうございます。毎回更新が楽しみでした!楽しく読ませていただきありがとうございました。 (2018年10月14日 21時) (レス) id: 3929cd90dd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こな | 作成日時:2017年5月28日 15時