第3話 ページ3
講義はそこまで時間を取らずに終了
スパイをする上ではかなり有意義な講義だったが、やはり私には必要ない内容で退屈した。
「おい、A」
教室から出たところで呼び止められる。振り向くと、波多野だった。
…相変わらず小柄だ。
「今日やった体術の練習相手をして欲しいんだが」
「おいおい、女の子にそれは無いだろう波多野」
通りすがりの甘利が肩を竦める。
「分かってる…勿論、技をかける訳じゃない」
「女性に抵抗されたとき、どれ程力が掛かるのか知りたいんですよね」
「ああ。見た目によらず物分かりが良くて助かったぜ」
頭の後ろで腕を組むと、ニヤリと笑った。私は返事の代わりに苦笑する。
「そうだな…じゃあ後で屋上に来てくれ」
「ええ、了解しました」
「それから、俺に対して敬語は使うな。そんな形式的なもの、邪魔なだけだろ?」
「そうね。じゃあ遠慮無く」
講義で使った道具を自室に置いてから、階段を上っていく。まだ外は明るいのに、窓のない踊場はやけに暗かった。
屋上に着くと、中央でしゃがんでいた波多野は下から上まで私を見た。
「そんな服装でいいのか?」
「ええ。ズボンを穿いていたら、佐久間さんに変な顔をされるから」
「変なところを気にするんだな」
まぁいい、と言って立ち上がる。
途端に姿勢を低くして地面を蹴った。
反射的に受け身の姿勢をとる私より素早く背後に回ると、首と腹部を案外強靭な腕が絞めつけてくる。
「この状況から、普通の女がする抵抗を全力でしてみてくれ」
普通の女…?
取り敢えず、首にぴったり張り付いた腕を退かそうとしてみる。もう片方の手で、腹部の方の腕も退かそうと足掻くが、びくともしない。
「…本当に元スパイか?」
「普通の女でって条件を出したのは、貴方でしょう…」
「それにしても非力だな…こんなもんなのか」
それより早く解いてくれないと気絶する…! という思いを込めて、全力でブーツの踵を波多野の脛にぶつけた。
「いってぇ!」
拘束が解けて、私は前のめりによろける。
「大丈夫ですか?」と差し出された腕に抱きとめられた。
「波多野…貴様、最低だな。か弱い女性に手をあげるとは」
「はぁ!? こいつの何処がか弱いんだよ!」
視線を上げると、まさかとは思ったが……三好がいた。嫌な人というイメージだっただけに、助けてくれた事に驚く私がいる。
その顔は真っ青な空を背景に、軽蔑を浮かべて波多野を見ていた。
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凛々(プロフ) - とても面白かったです!!原作のイメージが全く崩れないっtとりとした雰囲気が最高でした。蝶のくだりは思わず泣きました。素敵なお話を書いてくださってありがとうございます。このお話に出会えて良かったです。 (2019年12月18日 0時) (レス) id: 2ad6838eaa (このIDを非表示/違反報告)
こな(プロフ) - 燐さん» 返信が遅くなり申し訳ありません!とんでもないです、ありがとうございます!楽しんで頂けたようで嬉しく思います(^^) (2018年10月22日 11時) (レス) id: 6c36d7dbcf (このIDを非表示/違反報告)
燐 - めっちゃ切ない…!文才ハンパないっすね。展開もリアルで面白かったです!ラスト、三好さんの声が聞こえたトコロめっちゃ感動しました! (2018年10月16日 22時) (レス) id: 6e4e502025 (このIDを非表示/違反報告)
こな(プロフ) - 信乃さん» ありがとうございます!そう言ってくださる読者様のおかげです(;;)最後まで読んでくださりありがとうございました! (2018年10月15日 0時) (レス) id: 6c36d7dbcf (このIDを非表示/違反報告)
信乃(プロフ) - 完結おめでとうございます。毎回更新が楽しみでした!楽しく読ませていただきありがとうございました。 (2018年10月14日 21時) (レス) id: 3929cd90dd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こな | 作成日時:2017年5月28日 15時