第１８話 ページ18
若い恋人達の間で流行っているという切ないラブストーリー。
見終わった後で、「どうでしたか」と聞かれて返答に困った。正直、好みじゃない。
「こういうのも、たまには悪くないですね」
「そうですか。てっきり、Aさんはこういうのはお嫌いだと思っていましたが…」
三好はハットを胸に当てたまま、「楽しんで頂けたなら良かったです」と微笑んだ。
…笑みに隠された冷やかさは、若い恋人達に向けられている。
「ええ。けれど三好さんこそ、こういった話は趣味でないでしょう？」
「そうですね……下心を純愛と勘違いした挙げ句、そんなものに傾倒しているなんて、反吐が出そうです」
劇場から一歩外に出た途端
品のある薄い唇からは想像もつかないような辛辣な言葉が次々飛び出すので、私は失笑を抑えられなかった。
「Aさん」
「何ですか？」
表通りは劇をみる前とは打って変わり、人でゴタゴタしている。
劇場の前を足早に過ぎ去るカラフルな人の波を前にして、姿勢よく立つ三好が、私の手を引いて傍に寄せた。
「僕は、下心を純愛とは思いません。勿論、そんな不確かで下らないものに傾倒もしません」
三好は、一瞬触られたのも気付かないほど自然な手つきで私の頬を撫でる。
「貴女に釣り合うのは僕くらいなものです。……どうです？ 僕にしませんか？」
まぁ、聞くまでもなく貴女の答えは知っていますが。とでも言いたげな表情だ。
「本気にしますよ？」
「して下さい。後悔はさせませんので」
本気にしろ…なんて到底無理な話
無論彼にとって私などは、本命でなければ遊びですらなく─────…一種の“高難度の練習台”でしかない。
私は、私の頬にそっと触れていた手を払った。
「そんなに自信がお有りなら、きっと後悔させないで下さいね」
「…はい」
三好は、払われたその手で私の手を捕まえて、甲に短くキスをした。
前屈みになって垂れた前髪の先が、目の前で揺れる。
顔をあげた刹那、三好はいつもの冷やかさを欠片も感じさせない表情をした。
猫のように吊った丸っこい目が、優しく細められていた。
「浮気は、僕に気付かれないようにお願いしますよ」
「……ま、無理だとは思いますが」と付け加えて、垣間見えた優しさは霧のように消えた。
「貴方こそ」
「僕はしませんよ、こう見えて、一途ですから」
言いながら、本人も可笑しいと思ったのか、口の片端がにっと吊り上がった。
いいでしょう、貴方の遊び相手になってあげますよ─────
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凛々(プロフ) - とても面白かったです！！原作のイメージが全く崩れないっtとりとした雰囲気が最高でした。蝶のくだりは思わず泣きました。素敵なお話を書いてくださってありがとうございます。このお話に出会えて良かったです。 (2019年12月18日 0時) (
レス) id: 2ad6838eaa (このIDを非表示/違反報告)
こな(プロフ) - 燐さん» 返信が遅くなり申し訳ありません！とんでもないです、ありがとうございます！楽しんで頂けたようで嬉しく思います(^^) (2018年10月22日 11時) (レス) id: 6c36d7dbcf (このIDを非表示/違反報告)
燐 - めっちゃ切ない…!文才ハンパないっすね。展開もリアルで面白かったです！ラスト、三好さんの声が聞こえたトコロめっちゃ感動しました！ (2018年10月16日 22時) (レス) id: 6e4e502025 (このIDを非表示/違反報告)
こな(プロフ) - 信乃さん» ありがとうございます！そう言ってくださる読者様のおかげです(;;)最後まで読んでくださりありがとうございました！ (2018年10月15日 0時) (レス) id: 6c36d7dbcf (このIDを非表示/違反報告)
信乃(プロフ) - 完結おめでとうございます。毎回更新が楽しみでした！楽しく読ませていただきありがとうございました。 (2018年10月14日 21時) (レス) id: 3929cd90dd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：こな | 作成日時：2017年5月28日 15時
