【ジョーカー・ゲーム】貴方の死に顔はきっと奇麗だから

第１６話 鈍痛 ページ16

平均的な一日が過ぎていく
食堂の窓から見えた烏の数も平均で、私は退屈していた。

今日もＤ機関の学生は夜遊びにふけり、食堂には私一人だけ。それでも、私は隅のテーブルで木目を眺め続ける。

「ennui…ですか」

コツ、コツと気取った音をさせて、三好が食堂に入ってきた。
私は頬杖をやめて目を丸くした。「皆さんと、お出掛けなさったんじゃ？」

「“あまり夜更かしなさらないで下さいね”と、言われてしまったので」
「…聞き入れて下さるとは、思いませんでした」
「ふふ」

品のある笑いを溢して、私の正面の席につくと、何処から取り出したのか本を読み始める。

「席なら他にもありますよ」
「ええ」

文字を追う瞳に合わせて揺れる睫毛の長いこと
私はつい見入ってしまう。
汗をかかなそうな白い肌、薄っすらと笑みをたたえた血色の良い唇─────総じて現実味がない。

「…一つ伺いますが」
「はい」
「今日、僕が貴女に、何かしたんでしょうか」

まるで猫みたいな眼が私を捉える。相変わらず微笑んだまま、腹の底で何を考えているのか読めはしない。

「何故ですか？」
「貴女が、悪い意味でぎこちなかったので」

まさか、昨晩の夢のせい？
ふと鮮明に蘇る三好の白い肌。今目の前にいる本物よりずっと白く…─────

私の反応を見て、三好は続ける。

「その様子だと、自覚が無かったようですね。まぁ、気にする程の事でないなら結構です」
「…三好さん」
「何です？」

顔を触らせてください、というのもはばかられて、咄嗟に他の言葉を探す。

「寒いところはお好きですか」
「嫌いではありませんが」
「そうですか。けれど、あまり長居はしないで下さいね。死んでしまいますもの」
「死ぬ…？」

三好は眉間に皺を寄せて、未知の生物でも見つけたように私をじろじろ見た。
少しして、手で顔を覆うとくつくつ笑いだす。

「佐久間さんじゃないんですから…。ですが、お気遣いありがとう御座います。“僕は”平気ですよ」

今も、薄く開いた唇から、真っ白い息が出ているような気がした

「Aさんは、どんな場所がお嫌いです？」
「暑い場所と、煩い場所と、退屈な場所ですかね」

三好は小さく二回頷いた後、にっこり微笑んだ。

「明日、二人きりで何処か行きませんか？ 息抜きには丁度良いと思いますよ」

明日は休講日だ。二回連続で断るのも気が引けたので、私も微笑み答える。

「ええ、ご一緒させて頂きます」

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