第15話 ページ15
夜中の十二時頃に大東亞文化協會へ戻ってきた。
D機関の学生たちはちっとも疲れた顔をみせず中へ入っていく。
続いて中に入ると、困惑と怒りが混ざったような顔で佐久間さんが私を引き留めた。
「今日はすまなかった……婚約者役等、つらかっただろう」
「いいえ、楽しかったです」
「楽しかっただと?」と繰り返すので、私は頷いた。
「……そろそろ寝た方がいい、明日も早い」
まだ何か言おうとする佐久間さんを遮って、角を曲がりかけの小田切が私に言う。
「ええ。それでは佐久間さん、お休みなさい」
「あ、ああ…」
部屋に戻る途中、私は階段の踊り場で立ち止まる。
朝も光がささない、真っ暗な踊り場……ここの隅に潜んでいれば、もしかしてバレないんじゃないかと思う程深い闇だ。
部屋に戻って横になると、私はすぐに眠りに落ちた。
──────夢を見た。
私は寒い場所に居た。何処かは分からないか、日本に比べたら余程寒く、そして孤独だった。
吹雪に耐えて歩き続けていると、白い地面は緑へと変わり、多少暖かくなった。
少し遠くの方に人を見つけて駆け寄る。
微かに開いた唇から白い息を吐いて、ゾッとするほど白い肌がこっちを向く。
三好だった。
「顔色が優れないわ、もう少し暖かい場所に移動しましょう?」
「…」
彼は何も言わずにほくそ笑むばかりだ。
気が付くと、立っていた筈が横になっていた。私が見上げていたつもりだったのに、三好が此方を覗きこんでいる。
無表情にただ此方を観察する三好の肌は相変わらず生気が無い。
「……化け物になっても…死ぬときはやっぱり人間に戻るんですね」
いつの間にか私の顔を撫でていた手を止めて、三好はどこか呆れたように目を伏せた。
「"魔王"だったら、死さえ操るのでしょうか」
私は答えようとして、自分が喋れない事に気付く。三好は返事を待っている様子だったが、やがて悲しそうに笑った。
「いいんですよ、今はただ……──────」
私は無理矢理身体を動かして、三好の生気がない肌に触れた。冷たく、蝋人形みたく滑らかで人間味がない。
「三好さん…もっと暖かい場所に移動しないと、本当に死んでしまいますよ」
自由がきく
私は迷わず起き上がった。と同時に、肩や頭の上で花弁が舞う。
「さぁ、立って。こんな寒いところに留まる理由は無いですもの」
「僕の事は置いていって下さい」
「何故?」
「僕の居場所は、ここだからですよ」
「違うでしょう」
三好は、またほくそ笑んだ。
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凛々(プロフ) - とても面白かったです!!原作のイメージが全く崩れないっtとりとした雰囲気が最高でした。蝶のくだりは思わず泣きました。素敵なお話を書いてくださってありがとうございます。このお話に出会えて良かったです。 (2019年12月18日 0時) (レス) id: 2ad6838eaa (このIDを非表示/違反報告)
こな(プロフ) - 燐さん» 返信が遅くなり申し訳ありません!とんでもないです、ありがとうございます!楽しんで頂けたようで嬉しく思います(^^) (2018年10月22日 11時) (レス) id: 6c36d7dbcf (このIDを非表示/違反報告)
燐 - めっちゃ切ない…!文才ハンパないっすね。展開もリアルで面白かったです!ラスト、三好さんの声が聞こえたトコロめっちゃ感動しました! (2018年10月16日 22時) (レス) id: 6e4e502025 (このIDを非表示/違反報告)
こな(プロフ) - 信乃さん» ありがとうございます!そう言ってくださる読者様のおかげです(;;)最後まで読んでくださりありがとうございました! (2018年10月15日 0時) (レス) id: 6c36d7dbcf (このIDを非表示/違反報告)
信乃(プロフ) - 完結おめでとうございます。毎回更新が楽しみでした!楽しく読ませていただきありがとうございました。 (2018年10月14日 21時) (レス) id: 3929cd90dd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こな | 作成日時:2017年5月28日 15時