第14話 ページ14
珍しく大勢の晩餐は、表向きにはよく盛り上がった。
いつもなら有り得ない僕達の雰囲気に、佐久間中尉も気を緩めている様子で鯛を味わっている。
そんな中、途中で主役の一人が座布団から立ち上がった。佐久間さんは隣を見上げた。
「どうした?」
「お気になさらないで下さい」
彼女が朗かな笑みを残し部屋を出ると、中尉以外はそれとなく目配せをし合う。
「佐久間さん、僕が様子を見てきますから」
「ああ…悪いな三好」
佐久間さんは不安そうに襖を見ていたが、今度は気の毒そうな顔で鯛に戻った。
僕は後ろ手に襖を閉めると、庭の見える位置を目指して廊下を進み、影の薄い背中を見て、音もなく近付いた。
「気分はいかがです?」
「久しぶりの夜戸出で、少し落ち着かないですね」
そう言う割りに落ち着き払っているAは、此方に一瞥もくれない。
「神永の誘いなんて、断ればよかったものを…」
「たまには夜遊びしたいじゃありませんか」
「これが夜遊びのうちに入るなら、寮でカードゲームでも充分でしょう」
「嫌ですよ、貴殿方とは」
顔は正面を向いたまま僕の方に視線を向けた。中尉に向けていたものとは異質すぎる、皮肉な笑顔で。
「……Aさんは、自分も同業だったくせに、僕達を嫌ってらっしゃいますよね」
「あら、三好さんの事は好きですけれど?」
「そうですか、ありがとうございます」
僕は口だけ笑って、相手を観察する。
────この人は感情を隠そうとはしないが、それでいて真意が読めないから面白い
「それで…何故、そんなに佐久間さんに肩入れするんです?」
「肩入れ? 私は自分の食費を払っただけですよ」
「女性らしくもない」
「三好さんの目には、そう映るかも知れませんね」
ようやく僕の顔を正面に見据えて、皮肉な笑顔はどこへやら、普段の小さく可愛らしい動作で笑った。
だが、瞳の奥深くから、強い何かを感じる。
彼女の中に、僅かに残っていたセンチメンタルは、消え去ったらしい。
「そろそろ戻りませんか? 佐久間さんが心配しますし、酒が残っています」
「嗜む気なんて無いですもの」
言うまでもありませんよね、と苦笑する。僕は肩を竦めて応じ、短くため息を吐いた。
101人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
凛々(プロフ) - とても面白かったです!!原作のイメージが全く崩れないっtとりとした雰囲気が最高でした。蝶のくだりは思わず泣きました。素敵なお話を書いてくださってありがとうございます。このお話に出会えて良かったです。 (2019年12月18日 0時) (レス) id: 2ad6838eaa (このIDを非表示/違反報告)
こな(プロフ) - 燐さん» 返信が遅くなり申し訳ありません!とんでもないです、ありがとうございます!楽しんで頂けたようで嬉しく思います(^^) (2018年10月22日 11時) (レス) id: 6c36d7dbcf (このIDを非表示/違反報告)
燐 - めっちゃ切ない…!文才ハンパないっすね。展開もリアルで面白かったです!ラスト、三好さんの声が聞こえたトコロめっちゃ感動しました! (2018年10月16日 22時) (レス) id: 6e4e502025 (このIDを非表示/違反報告)
こな(プロフ) - 信乃さん» ありがとうございます!そう言ってくださる読者様のおかげです(;;)最後まで読んでくださりありがとうございました! (2018年10月15日 0時) (レス) id: 6c36d7dbcf (このIDを非表示/違反報告)
信乃(プロフ) - 完結おめでとうございます。毎回更新が楽しみでした!楽しく読ませていただきありがとうございました。 (2018年10月14日 21時) (レス) id: 3929cd90dd (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:こな | 作成日時:2017年5月28日 15時