第2話 ページ2
私が大東亞文化協會に初めて足を踏み入れたのは、まだ肌寒い春の夜だ。
夜は更けていた。
古ぼけて見窄らしい外観から間取りを想定して、扉を開く。
左右の廊下にある扉の一つは開いていて、灯りと話し声が漏れていた。反対には沈黙を守る扉があり、私は迷わずそこをノックした。
「入れ」
「失礼します」
小さな部屋の中央に陣取る人物が、結城…
「お初にお目にかかります、Aです」
「堅苦しい挨拶は要らん。それより貴様、自分が呼ばれた意味は分かっているか?」
「ええ」
私は女で、元スパイ──────嘘を吐くとは限らない嘘つき
「フン」と私を呼び寄せた張本人、結城中佐は笑った。
「貴様の寝室は二階の左端だ。好きに使うがいい。講義は受けろ、夜は外出するな」
女性らしい行動、言動を観察する機会は、女性の居ないD機関にとって貴重だが、D機関に踏み入るには諜報に対する耐性と、理解と、信頼が要る。
その条件を満たすのが、中佐の知る中で私だけだったのだろう。
「分かりました」
「講義の予定表だ」
「どうも」
紙を受け取り、小さな執務室を出て、灯りと話し声の漏れる部屋に足を向けた。
「ほら、プリンセスの登場だ」
「神永は本当に女性が好きですよね」
「男よりはな」
半分開いた扉の前で立ち止まる。
「初めまして」
「ええ、初めまして」
声からして、最初に声をかけてきた彼が神永か。
彼を含め、四人程は随分と親しみやすそうな微笑みを浮かべている。
「Aさんですね。僕は実井です。宜しくお願いします」
「甘利だよー、宜しくね」
「田崎だ、宜しく」
「宜しくお願いします」
私も笑顔で挨拶をした。次に、入り口のすぐ横のテーブルについていた、真面目そうな男と目が合う。
「小田切だ。……宜しく」
「此方こそ」
この人だけ雰囲気が少し違っているが…まぁ、置いといて
カウンターの奥から、割烹着姿の眠そうな人が声をかけてくる。
「福本だ…ここの飯は俺が作っているから、食べたいものがあれば言ってくれ」
「分かりました」
「貴様は炊事はしないのか?」
「必要であればしますよ。…貴方は?」
「波多野。せいぜい宜しく」
小柄な青年に頷くと、最後に私は、斜め前の椅子に座っている人を見た。
気の強そうな顔つきをしていて、整ってもいた。血色が良いのに肌が白い。
「僕は三好です。馴れ馴れしくする気は有りませんが…無下には扱いませんよ」
随分上から目線な態度で、嫌な人だ。
「ええ、宜しくお願いします」
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凛々(プロフ) - とても面白かったです!!原作のイメージが全く崩れないっtとりとした雰囲気が最高でした。蝶のくだりは思わず泣きました。素敵なお話を書いてくださってありがとうございます。このお話に出会えて良かったです。 (2019年12月18日 0時) (レス) id: 2ad6838eaa (このIDを非表示/違反報告)
こな(プロフ) - 燐さん» 返信が遅くなり申し訳ありません!とんでもないです、ありがとうございます!楽しんで頂けたようで嬉しく思います(^^) (2018年10月22日 11時) (レス) id: 6c36d7dbcf (このIDを非表示/違反報告)
燐 - めっちゃ切ない…!文才ハンパないっすね。展開もリアルで面白かったです!ラスト、三好さんの声が聞こえたトコロめっちゃ感動しました! (2018年10月16日 22時) (レス) id: 6e4e502025 (このIDを非表示/違反報告)
こな(プロフ) - 信乃さん» ありがとうございます!そう言ってくださる読者様のおかげです(;;)最後まで読んでくださりありがとうございました! (2018年10月15日 0時) (レス) id: 6c36d7dbcf (このIDを非表示/違反報告)
信乃(プロフ) - 完結おめでとうございます。毎回更新が楽しみでした!楽しく読ませていただきありがとうございました。 (2018年10月14日 21時) (レス) id: 3929cd90dd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こな | 作成日時:2017年5月28日 15時