――16 ページ28
.
「楽しくないですか？」
「えっ……いえ、そんなことは」
「そう？なんか難しい顔してるから」
「ちょっと……知り合いを思い出しただけです」
「それは、探してほしいっていう男？」
ちょっと悩む。
それから頷く。
社長はまたグラスを傾けてワインを喉に流し込んだ。
お酒が入ったからか口調が砕けていて、話しやすく感じる。
「そうですか。……見つけられたらいいんだけど」
「すみません、こんなこと」
「なにかないかって聞いたのは俺だから気にしなくていいですよ。ギブアンドテイク、そう言ったでしょ」
深く追求してこない社長は大人だ。
「今日は一日お疲れさまでした。ありがとう、一日中演奏してくれて。おかげで気持ち良く仕事が出来ました」
「お役に立てたならよかったです」
「一日でばっちりファンになっちゃいました」
目を細めて社長が笑う。
私は鼓動が早くなるのを感じながらワインを煽って、余計早くなる鼓動ごと全部お酒のせいにする。
「そう言えば社長、よかったんですか？私と食事に来て」
「なんで？」
「なにかお約束があったのでは……？」
「ああ」
私の言葉に社長はグラスを置いた。
渋い顔をして苦笑い。
「いいんですよ。婚約者と食事の予定があったんですが、別に楽しいものでもないので」
そう言う社長はわずかに眉を寄せていた。
行きたくない、というのが表情から伝わってくる。
「むしろ、言い訳に使ってごめんなさい。貴女との予定があれば断れると思って」
「それは、全然……」
おかげで普段では絶対食べないような豪華なディナーにありついているので、とは言わないけど。
我ながら現金だ。
「でも、一緒にご飯を食べてみたかったのはほんとですよ。お酒飲むとその人の本心が見えやすいから」
「あ……」
「あ、嫌な思いさせちゃったかな？ごめんね、そういう性分でさ。いい人ばかりじゃないから」
申し訳なさそうな顔をして社長は最後のワインを口に流し込んだ。
空になったグラスを見つめて、「さすがにやめておくか」なんて呟いている。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 393人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
iCHiKA(プロフ) - のりさん» のり様、お久しぶりです！お待たせしてました、久々の今回は「キスしたいだけ」でございます。こちらこそ今回もありがとうございます。そう言っていただけてとても嬉しいです。お楽しみいただければ良いのですが。今回もぜひ最後までよろしくお願いしますね！ (2021年9月8日 21時) (
レス) id: ca4476f6fd (このIDを非表示/違反報告)
のり(プロフ) - キタ。今回はキスをしたいだけのお話なんですね。しかも思いがけず長編連載。ありがとうございますm(__)m 既に続きが楽しみすぎです。あ、こんにちは。お疲れ様です。余談ですが私にも亜由ちゃん同様カワイ子ちゃん(3人)がいますw (2021年9月8日 16時) (レス) id: 18c83a81d5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：iCHiKA
| 作成日時：2021年9月4日 16時
