夏に解けて Ⅴ (ページ7)

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｢(ディフェンスがキツくなってきた、こっちが動けばディフェンスの仕事も増えて消耗すると読んでたけど)｣

｢(相手は自分よりも大きくて経験のある3年生…どうしてもその差は埋まらない、こっちの消耗の方が早い)｣

肩で息をしながら冷静に今の状況を見るA

途中で何度か左膝に巻かれたテーピングが剥がれかけ

その度に無理やり肌に貼り付けなおした

激しい痛みは走っていないもののどうも違和感が拭えない

方向転換をする時やシュートの着地をすると時々鈍い痛みが走るのがほんの少し怖く思えて

この恐怖をなかったことにするには激しく動き回ることで忘れるしかない、無意識にそう思っていたのか

三井や宮城が言っていた通り無謀な策で相手に挑んでは焦っていた

｢(お願い、今だけは……あともう少しだけ時間をちょうだい)｣

たかが練習試合、そう言われたらそれまでだ

でも練習で動けなければ試合で動けるわけがない

いつ終わりが来るかわからないのに

手を抜くことなんてできない

いつも練習の度にこれが最後かもって、思ってるから

｢先輩！｣

剥がれかけたテーピングをそっとなぞり

シューティングガードの先輩にパスを送ると同時に

指で1,2,5と合図を送る

Aの送った合図の意味を瞬時に理解した3年生たちは

オフェンスの陣形をホーンズセットから本来の形へと戻し

シューティングガードとスモールフォワードがポイントガードのAと並んだ

｢また形が変わった！｣

｢アイソレーションだな｣

｢アイソレーション？｣

ホーンの次はアイソレーション

アイソレーションとは得点能力の高いプレイヤーをボールを保持した状態から孤立させ1対1を狙うフォーメーションで

主にチームのエースが1対1を仕掛ける特別なフォーメーションオフェンス

ボールを持つ選手以外は1対1を妨げないようにアウトサイドに広く構えてスペースを作ることで

ボールを持った選手が得点を決められるようにチャンスを広げることができる

｢この感じを見てるとアイソレーションを仕掛けるのはAね｣

｢一見簡単そうに見えるけどアイソレーションを仕掛ける選手にはドリブルとパスの2つの高いスキルが求められる｣

｢ドライブが成功してもリカバリーがあるから冷静にフリーの選手をアシストしなきゃいけない場合もあるのよ｣