夏に解けて Ⅴ (ページ49)

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自分に用があるとわかった途端

Aは自転車の後ろから降りた

桜木がわざわざあの流川に声をかけてまで引き止めたのだ

きっと大事なことなんだろうとAなりに察したのだろう

｢ほらミッチー、せっかくブッチーが止まってくれたんだ話したいこと話さないと失礼だぞ｣

｢大体お前がな…｣

｢洋平と晴子さんが言ってたぜ、ブッチーは男から人気だって｣

｢………………んなのわかってんだよ｣

Aに背を向けヒソヒソコソコソ内緒話をする三井と桜木

普段から大好きな晴子に伝えたいことは正直に伝える桜木には

Aに言いたいことを素直に言えずその割にはずっと悩んでいる三井の姿が焦れったく見えたのかもしれない

｢全国へ行けばまた誘うチャンスがあるんだろ？｣

｢今回予定が合わなくて無理って断られても次チャンスはある！そう思って当たって砕けろミッチー！｣

もし今回断られたとしても

試合に勝って全国行きの切符を掴めば誘うチャンスはある

それもそうだ

桜木にグイグイ半強制的に背を押された三井は

バツが悪そうな顔をしながらAと向き合った

｢花渕｣

｢は、はい…｣

今から告白でもするのかと突っ込みたくなるほど

お互い顔を赤くして目を逸らしながら声をかける三井とA

少しでも喋れば心臓が口から出てしまうんじゃないかと思うほど緊張しているが当然喋らなければ何も始まらない

｢無理だったら無理って、正直に言って欲しいんだけど｣

｢今度…いつでもいい、インターハイ予選…見に来てくんねぇか｣

やっとの思いで言いたいことを直接本人に伝えた三井

逸らしていた目線を縋るようにAの方へ向けると

ジャージの袖口で顔を隠したままコクコクと無言で頷いている

これは…オッケーという事でいいのだろうか

｢彩子ちゃんにトーナメント表見せてもらったんです｣

｢準々決勝の翔陽戦なら…見に行けます｣

Aが見に行けるのは準々決勝の翔陽戦

翔陽と戦うには4試合ほどの試合があり1度も負けることなく勝ち上がる必要がある

｢私も頑張ります、三井先輩も…頑張ってください｣

1度負けたら全てが終わる戦いは

すぐそこまで迫っていた

｢絶対勝ちましょうね、一緒に｣