夏に解けて Ⅴ (ページ42)

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突然のことに宮城リョータと彩子は思わず2度見をした

ぶっきらぼうでデリカシーがなくて声も態度もデカくて

ちょっと卑怯ででもバスケがすごく上手い憎めない先輩が

礼儀正しく素直でかわいらしい後輩の頬を愛おしそうに撫でたと思ったら

数センチでも動けば唇と唇が重なってしまうほど距離が近いのをわかっているのかいないのかわからないが

ぐっと顔を近づけ始めた

いやいやいや何してんだあの人？え、そういうこと？

誰がどう見ても三井寿という恋愛のれの字も知らず

更に言うとそのデリカシーのなさで密かに好意を寄せる女の子を知らず知らずのうちに傷つけてそうな人が

花渕Aという2つ下の後輩のことを好いているのは明確で部員の殆どは知らないフリをしていたが

流石にこの迫り方はよくないと一斉に思った

｢あの人ほんと人との距離感が0か100しかないな！！｣

気づいたら体が動いていたのは三井だけではなかった

まず先に電光石火の宮城リョータが動き出し

Aのことを気にかけていた彩子も動き出す

このまま放っておいたら何が起きるかは想像に容易い

今まで人を避け、威嚇してきた反動なのかなんなのか知らないが人との距離感が0か100の2択しかない

高いコミュニケーション能力の化け物三井をこのまま思い通りにさせていたらAの大切な何かが奪われるどころか

思い出す度に頭が痛くなるようなバスケ部襲撃事件を経て

部員たちの中でやっと少しずつ築かれ始めた三井に対する信頼というものが一瞬して奪われてしまう

そんなことがあっていいのか？あっていいわけがない

｢はいストップ！！！そこまでよ先輩！｣

凄まじい勢いで三井とAの元へ走った彩子は

何かを失いかけた三井を正気に戻すかのように

いつもは主に桜木や宮城に対して使っているハリセンで容赦なく先輩である三井の頭を勢いよく叩いた

｢はいはいほら離れて離れて｣

｢三井サン、もう練習再開するんでさっさとその重いケツと腰あげてコートに行ってください｣

彩子にハリセンで叩かれた頭をそっと抑えながら

黙って宮城の方へと視線を向ける三井

その表情を見た瞬間、丸まっていた三井の背筋が急にピンと伸びた

｢今すぐ、コートに、行け、三井サン｣

｢お、おう…｣

冗談や言い訳を言ったら

殺されてしまうんじゃないかと思うほど

宮城は恐ろしい表情を浮かべていた