夏に解けて Ⅴ (ページ41)

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｢ったく、こっちには花渕も彩子もいたんだから気をつけろよな…｣

やっと桜木と流川の喧嘩が終わったのか

ため息をつきながら視線をAの方に移した三井

自分の反応があと少しでも遅れていたらとんでもない事になっていたと内心ハラハラしたのは内緒だ

これほど自分の反射神経の良さを褒めたくなったことはない

｢ごめん花渕、いきなりビビったよな…って｣

不意にバチッと合わさる視線

改めて面と向かってAと見つめ合うと

その距離は思っていたよりも近くまさに目と鼻の先の距離

あまりの近さに何故か三井は口を噤み、Aは驚きのあまり服を掴む手の力を緩めた

まさかこんなに近いとは三井もAも全く想像してなかったのだろう

｢(なんか顔近くねぇか？)｣

声に出して言おうと思った言葉は肝心な時に声にならない

1周回って冷静になった三井はまじまじとAの顔を見つめ続けた

艶やかな黒髪はサラサラで、目はぱっちり大きくて、まつ毛がこれでもかと言うほど長くて

こんな事しないが顔は握りつぶされてしまうんじゃないかと謎に心配してしまうほど小さい

意識してしまっているからなのか、それとも誰から見てもそうなのかはわからないが見れば見るほどかわいく見える

｢(こんだけかわいけりゃそりゃ上の学年にも好かれるよな)｣

｢(なんでオレが先輩で花渕が後輩なんだろうなとか考えちまう)｣

先輩と後輩じゃなかったら

また別の関係で、また違った距離感だったかもしれない

そう思うとなんだか複雑な気持ちになってきて

｢あ、あの…先輩？｣

頭に触れていた手は

自然とAの頬を愛おしそうに撫でていた

あと数センチ動けば唇と唇が重なりそうな距離

なんでもないように振る舞って

近くにいるAを意識しないようにといつもの様に騒ぐ桜木や流川に向かって話していたが

庇った瞬間から今もずっと心臓はバクバクといつもより大きな音を立て、耳は燃えるように熱かった

抱きとめているようなこの状態ではきっとどれだけ冷静さを装っていてもAには全てバレているかもしれない

｢いくらなんでも…見すぎです｣

服をギュッと弱々しい力で掴み

顔を真っ赤にして恥ずかしがるAを見て

三井の中の何かがプツンと途切れ

何を思ったのか、ぐっと顔を近づけ始めた

｢オレはお前に…｣