夏に解けて Ⅴ (ページ35)

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｢女バスも毎日試合やるわけじゃないし誘いたいなら誘えば？｣

｢A、三井から誘われたら絶対行くと思うし普通に勉強になると思う｣

Aの怪我ですっかり忘れかけていた試合観戦のお誘い

選手でもなんでもなくどこの部にも属さない帰宅部だったらすぐにでも誘っていたかもしれないが

Aはバリバリ現役の女子バスケ部員であり、更には部を支える期待のルーキー選手

誘いたい気持ちはあるのだが立場を考えるとどうしても躊躇ってしまう

同じ女バスの3年生はこんなことを言ってくれたが、実際Aが誘われてどう答えるのかは分からない

なんなら三井は昨日のように帰り際に言うつもり満々だったのだが…今日は流川と帰るという現実が刺さりに刺さる

｢(いや、誘えるわけねぇだろこんな状況で)｣

今日のお昼休み、いや6時間目の授業までは

まぁその場のノリで誘えるだろ！と謎の自信に満ちていた

しかしA本人を目の前にするとどうしても言葉が出てこなくなってしまう

ただでさえ片目を怪我して歩くだけでも一苦労なのにインターハイ予選来ねぇか？なんて言えるわけがない

自分の気持ちよりも相手のことを気にして優先してしまう

天上天下唯我独尊、常に誰かの中心でバカ正直に突っ走っていく三井にしてはかなり慎重だが

そんな人間を一瞬にして変えてしまうのが恋心というもので

どんなカタブツでも、どんな人たらしでも、どんな人間でも変えてしまう一種の魔法だ

バスケと比べたらやや下に下がってしまうが

それでもAの存在は三井の中にとっていつの間にか特別なものになっていていい方向に変えてくれる存在になった

｢(でも言ってみなきゃわかんねぇしな)｣

相変わらずこっちを見ることなく

ぼーっとどこかを見ているAのことを見る

無理に誘う気は全くない

ただ、見に来てくれないかななんて

微かな期待を抱いてるだけで

｢で、話…なんですか？｣

花渕、と苗字を呼んだのはいいものの

ぼーっとしていたAを心配した言葉をぶつけたせいで

いつの間にか逸れてしまった話の話題をAが再び戻す

これはきっと思い込みというか、そうであって欲しいというものでしかないが

心做しかAの声が恥ずかしがってるように聞こえる

｢いや、それがさ…｣