夏に解けて Ⅴ (ページ31)

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｢(今の言葉にはきっと他意はない、絶対にない)｣

Aは元から小さい体を更に小さくするように

ギュッと膝を抱えて縮こまっては

今の気持ちとドクドクと大きく音を立てる胸の高鳴りを悟られないようにと膝に自分の額を押し付けた

下手にいつも通りにしていたらきっと色んなことが筒抜けになってしまう

そう思っているうちに気づいたらまた下ろした髪の毛で微かに赤くなった頬を隠してしまっていた

隠せるものなら全力で隠したい

きっと今さっきの発言に特別な意味なんて何もなく、ただただ思ったことを口にしただけで

好きとかそういう意味を含んだものではないはずだ

今ここで小さくヤワな心の中で飛び跳ねたくなるほど喜んで、心臓が取れそうなほどときめいていることなんて

絶対に何がなんでも、死んでも悟られるわけにはいかない

向こうが何も意識せず言ってるであろう言葉にこんなにいちいち喜ぶなんて

馬鹿馬鹿しいのにも程があるし恥ずかしい

｢(あ〜〜、やっちまった…完全にやったなこれ)｣

｢(いや…もしかしたら怪我したとこが痛いのか？何なんだよ、急に距離取られたぞ)｣

急に黙り込むどころか顔を隠し

ギュッと縮こまって距離を取ったAの姿を見て

地味にショックを受けた三井は

無意識にポロッと本音をこぼした自分の口を勢いよく手で塞ぎながら床に目線を落とした

思ったことをすぐ言ってしまうほど素直な性格の三井が言う言葉には良くも悪くも嘘や遠慮というものはない

しかし相手はちょっといいな、気になるな、と完璧に意識してしまっている"女子"であり

男子を相手にするのとではわけが違う少なくとも…

｢どうしたんすか三井サン、差し歯でも取れました？｣

｢うるせー…そんなんじゃねぇしそんな簡単に取れるもんじゃねぇよ差し歯ってのは｣

こういう後輩と話すのとでは全然違うわけで

ただ純粋にいいなと思ったことを言っただけでも

人によっては受け取り方が変わってくる

好きな子ができた生意気な小学生男子なら思ってもいないことを口にして好きな子を怒らせてしまいがちだが

高校３年生にして初めて1人の女子に対していいなと思った三井寿はその逆だった

無意識に投げた褒め言葉が受け取り方によっては

｢(すげぇ口説いてくるみたいな軽い男に思われてるかもしんねぇよな、オレ)｣

軽い人、という印象を与えかねない