夏に解けて Ⅴ (ページ23)

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Aと三井は

2人して同じようにヒュッと息を浅く吸い込んだ

Aは三井が水飲み場から体育館に戻ってきてから

三井は宮城に言われて隣を見た瞬間からだ

不思議なことに人は驚くと一瞬とはいえ息をすることすら忘れるらしい

｢(わ、三井先輩だ……)｣

｢(って…いやいや、何やってんだろあの人は)｣

いつものノリで"あちぃな"だとかなんとか

声のボリュームが大きすぎる独り言を言いながら水飲み場から戻ってきた三井の姿を

Aはがっつりと目線だけでなく顔を向けて見てしまった

朝練で会う時には短く切った前髪を整髪剤で上げている姿しか見ていなかったからか

汗や水で濡れて前髪ができているいつもとちょっぴり違う三井のことを見た途端、Aは謎の罪悪感に襲われる

髪型もそうだが1番Aをドギマギさせたのは三井の何気ない仕草だ

｢あー、あちぃ今すぐ冬になんねぇかな…なんつって｣

Tシャツの首元を掴んで引っ張りあげ

それが当然のことのように汗を拭く三井が

Aの姿に気づかず一歩、また一歩と近づいてくる

何がとは言いたくないから言わないが

完全に見えてしまっている

幼馴染みに流川がいるとはいえ、ずっと小さい頃から家族同然に過ごしてきた流川と三井とでは色々ワケが違う

流川のそれと三井のそれは全くの別問題である

今まで異性のことを意識したことがなかったAからすれば尚更ダメだったのだろう

自分でも驚くほどドキドキしてしまい耐性がないのがわかる

｢(逆に慣れてたらそれはそれで問題なんだけど)｣

Aは逃げ隠れるように急いで目線を外し

そそくさとこちらへ向かってくる三井に背を向けた

鬱陶しくて分けていた前髪も目線が隠れるように元に戻し

できるだけ顔が見えないように下を向く

宮城や彩子といった先輩の優しさに甘えた結果流川を待つためにこの場にいるが

いざこうして三井を前にするとどうしても

逃げるか隠れるか、この2択しか頭に浮かばない

｢(やっぱり…宮城先輩には悪いけど楓のことは教室か保健室で待つべきだったかも)｣

｢(こんな………こんな情けない姿、見られたくない)｣

目を背けて逃げたくなってしまうのは

ただ恥ずかしいからだけじゃない

こんな姿は死んでも見られたくなかった