残滓 (ページ4)

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　ある兄弟が溝を埋め始めて数年が経った。相変わらず荒廃した世界は緩やかに、そして確実に終焉へと向かっている。あの一件から共に過ごすようになった彼らは瓦礫の上に座り、遠くを歩く巨大な爬虫類のような姿をした化け物を眺めていた。この世界が終末を迎える原因の一つであり、自分達がこうして再会できた要因の一つでもある怪物だ。
　街だった場所を我が物顔で歩き回る怪物達から隣に座る家族へと視線を移す。あれ程に憎んでいた筈の兄とこうして並んで座っていることに僅かな違和感を感じながら呟く。

「兄さん。私は一つ、気になっていることがある」

　声掛けに応じ、目を合わせた兄は無言で続きを促した。

「兄さんは私を殺め、そして嘘をついた。私は幾万ものヒトを殺め続けた。これは赦されないことだろう」

「……ああ、そうだね。赦されないだろう」

「いつか私達が赦される時はくるのだろうか」

　兄の額に刻まれた印を見る。誰よりも耕作に精を出していた彼は、二度と大地の恵みを得ることはない。彼の歩いた土地は不毛の地となり、彼が近付いた植物は死に絶え、彼を拒絶する。殺されることを恐れた彼に対する神の慈悲も、最早呪いと化していた。弟の視線に気付かぬふりをした兄は静かに言う。

「どうだろう。僕もアベルも、きっと長い時間を必要とするだろう。それは今迄よりもずっと長い時間だろうね」

　兄も弟も、形は違えど完全な死を迎える事のできない呪いを受けた者。たとえこの星が滅んだとしても、二人は生き続けるのだろう。彼らの罪が赦される時まで、永遠に。
　暫く景色を眺めていた二人は、街だったものを背に歩き出す。生き延びていたのであろうヒトらしきものの断末魔が遠くから聞こえた。

「行こうか、アベル」

「ああ、そうしようか。カイン兄さん」

　カインとアベル。血を分け、流し、そして気の遠くなるような長い年月を生きた彼らは旅に出る。じきに終末を迎える世界に小さく別れを告げて。